唯品会(VIP)が29億元で杉杉商業のアウトレットモールを買収 - 中国ニューリテール戦国時代 -
中国EC大手の唯品会(VIP)が約29億元で杉杉グループのアウトレットモール業態企業である杉杉商業を完全買収しました。これでVIPはO2Oエコシステムを取り揃えたことになります。なかなか上手いM&Aと言っていい中身を紐解きます。
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VIPの原点回帰と中国ニューリテールエコシステムの拡充の中核となる今回のM&A
2019年7月10日、中国ECマーケット大手の唯品会(VIP)が100%出資の香港子会社であるVipshop International Holdings Limitedを通じて、29億元(約464億円)で杉杉集団グループ傘下の杉杉商業有限公司の株式を取得しました。取得した株式は杉杉集団有限公司と寧波星通創富股份権投資パートナーズが杉杉商業に対して保有していた持ち分で、杉杉商業の100%にあたります。
この買収を通してVIPは杉杉商業が運営していたアウトレットモールを手に入れることとなり、O2Oエコシステムを保有することができます。VIPによると、2年分の利益を今回の投資に回したということですが、この投資は理にかなっているのでしょうか?
VIPは2008年に創業、”ハイブランドを特化で”というコンセプトを掲げて生活者の注目を引いてきました。2012年、中国のインターネット業界が急成長を遂げたタイミングでハイブランド中心から、”大衆ブランドのアウトレット”へ方針転換をはかります。
そして、この方針転換後の3年、VIPは急成長を遂げます。2012年からの単年度成長率は、204%, 138%, 123%と高い伸びを見せ、VIPの時価総額は200億ドルを超えました。
ところが2016年からVIPの成長には陰りが見られるようになり、2017年, 2018年の営業利益はマイナス成長となっています。危機感を感じたVIPは2017年から再び方針転換をはかります。”世界の厳選されたブランドの正規品を特化で”というコンセプトに立ち戻ることになります。
VIPを取り巻く競争環境は非常に厳しいものがあります。VIPが苦境に陥っているタイミングで急激に成長したのは拼多多(PinDuoDuo:ピンドゥオドゥオ)です。2018年初頭にはPDDのユーザー数は約3億人となり、VIPの会員数を超えてしまいました。
さて、コンセプトを原点回帰させたVIPですが、その後は再び力を取り戻します。2019年第1四半期の売上は前年比7.3%成長の213億元(約3,408億円)、営業利益も64.7%成長と、増収増益を達成しています。しかし、売上成長率についてはすぐに限界がくる可能性を感じたVIPは29億元で杉杉商業に対するM&Aを行うことを決意します。これは親会社へ帰属する当期純利益15億元のちょうど2倍、まさに2年分の利益を投入したことになります。
杉杉商業集団は寧波に本拠地を置く、杉杉集団傘下の全額出資子会社で、杉杉集団のアウトレット小売業態を事業とする企業です。2011年に杉杉グループとして初めてアウトレット店舗を寧波に開店したのを皮切りに、哈尔滨(ハルビン)市、太原市、鄭州市、南昌市などへ次々と出店、2018年の中国アウトレット店舗ランキングトップ10に4店舗をランクインさせています。
杉杉集団はリチウム電池を中核事業として位置付けており、「その他の事情については道を譲る」とまで言っています。杉杉商業はノンコア事業のカーブアウトという位置付けになるでしょう。
ニューリテール時代の到来を受けて、VIPもO2Oエコシステムの拡充に乗り出しました。ハイブランドをお得な価格で提供するVIPの提供価値は、沿岸部大都市というよりは内陸部中核都市に照準があたります。その更に先のフロンティアにはPDDが存在します。そういった意味で、内陸部中核都市にハイブランドのアウトレット店舗を持つ杉杉商業の店舗網を手に入れたことはVIPにとって良い買い物であったと言えるのではないでしょうか。
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