まるごとにっぽんで失敗した東京楽天地のナイーブな理想
浅草公園六区の中心にある複合観光商業施設である「まるごとにっぽん」が2020年11月に閉館することとなりました。
この区画一体を再開発したのは阪神阪急東宝グループ傘下のデベロッパーである東京楽天地。東京楽天地はこの一体を複合開発し、ビル2棟のうち1棟の地上部分を100%子会社である「まるごとにっぽん」に運営させ、地域の特産物を扱うかたちでの物販、飲食店をテナント形態で入居させ、運営していました。
同じ棟の地下部分はパチンコ屋が入居していました。そして別棟はロイヤルホールディングスのホテル事業が運営するブランドの一つ、”リッチモンドホテル”が入居していました。この2つのテナントについては今後も継続して入居、運営をし続けることとなるようです。
要するに、浅草六区という、浅草を代表する中心繁華街の再開発において、永続的な運営ができたのはパチンコ屋とホテルということになった訳です。ホテルの中心顧客層は推測ですがそのほとんどが外国人観光客であると考えられ、パチンコを趣味とする地元の人間と、外国人はお金になり、まるごとにっぽんのターゲット顧客層は金にならなかったということです。
まるごとにっぽんのターゲットは一体誰だったのでしょうか。浅草公園六区のどな真ん中に立地するまるごとにっぽんでは、各地方の名産品、特産品が取り揃えられ、それを購入して持ち帰ったり、その場で飲食することができました。
地元界隈では開店当初から、ターゲット顧客層がよく分からないという声が少なからずありました。浅草は個人商店的な物販店や飲食店が密集する場所であり、地元の人たちにとってみれば、まるごとにっぽんに行って地方の特産物を積極的に購入する理由はありません。良いものを扱っていたのは確かですが、単価も割高でした。彼らにとってみれば、浅草公園六区に賑わいができ、その影響で自らの店舗に流動性が還元されてくれれば良いと思っていたのではないでしょうか。
それでは、浅草以外の人々にとってまるごとにっぽんは魅力的な価値として映ったのでしょうか。日本人が浅草に来てわざわざ地方の名産品や特産品を買う理由はありません。その地方に行って買うことにこそ意味があるからです。そしてこのロジック、外国人にしても同じことではないでしょうか。
東京と地方を結ぶために、東京の流動性が高い場所に地方の特産品、名産品を並べることで、地方への流動性を還元していくという考え方を東京圏ではよく見聞きします。一方で、アンテナショップ等同様の考え方をベースとしている業態を見ると、決して成功しているようには思えません。
唯一成功しているのは、銀座三越など超一流百貨店の地下食品売り場くらいではないでしょうか。成功の理由は、単に一般以上の購買力を持った人がお金に糸目をつけずにモノを買っているということではないでしょうか。
地方の魅力を発信するためには、その地方でしか体験できない”コト”があってこそなのではないでしょうか。そして、その”コト”を東京で再現することはできないという前提の中、”モノ”に頼らざるを得ない状態では、中途半端な購買力の立地で勝てる訳がありません。超一流立地を狙わなければならないのです。お金に余裕がある人々は純粋に”モノ”を買いますから。
結局、東京楽天地が頼らざるを得ないのは、中毒性の高い余興(コト)に依存する地元の人間と、”浅草というコト”を楽しみに来た外国人観光客だったというのは皮肉なことです。
企画の段階で気づく人がいないことが本当に不思議です。