日本企業の香港上場スキームの提案

海外投資家狙いの事業承継案件の存在

弊社は優良な事業アセットを持ちながらも事業承継等の課題を持つ企業について、中国市場での事業成長を絡めたかたちでの、中国・中華圏投資家によるM&Aの支援を行っております。その関連でいくつかの日本企業の企業・事業売却希望案件を抱えています。

その内の1社について今回の話が持ちかけられたのですが、事業の性質上、海外投資家、特に中国・中華圏の投資家によるM&Aが最適と思われる案件があり、大陸を中心としてマッチングを進めているところですが、今回、とある人脈により香港人投資家から声がかかりました。

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香港人投資家とのなかなか噛み合わない会話

香港人投資家が提案してきたのは、まず先に香港のメインボードにIPOするという提案で、そのIPO費用分について対象会社に出資するというものでした。上場後に対象企業の株価が上がれば売り抜けるという非常に単純なスキームです。

IPOにかかる費用分を投資する訳ですが、彼が言う費用の額は、我々が知る限りでの東証やマザーズなどに対するIPO費用と比べるとかなり高額で、その根拠については良く分かりませんでした。

また、IPOしたは良いものの、株価が上がらなければその時点で利益を得ることはできません。その価格が上がる根拠について彼は、「香港のメインボードで上場することによって、企業価値、エクイティバリューに加えて、”シェル”の価値が乗ってくるため、価格は上がりやすい」というものでした。

彼は、その”シェル”の価値は20億円を下らないとも言っていました。純粋なエクイティ・バリューに加えて20億円分の価値が真水として上乗せされるということを示しているのです。

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”リバース・テイクオーバー”スキーム

彼とは中国語で話していたこともあり、我々は最初何を言っているのか具体的にはよく分かりませんでしたが、後々調べた結果として、”リバース・テイクオーバー”というスキームを示していることが分かりました。

未公開企業が対象市場に上場している企業を買収することによって上場するスキームで、「逆さ合併」や「裏口上場」と呼ばれています。

日本ではこのスキームを使った場合に対象となる上場企業が上場廃止基準に抵触するために事実上、スキーム自体が無力化されています。しかし、香港では現時点で可能なのです。

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仮想通貨取引所大手Huobi(火幣)の事例

Huobiの香港メインボードへの上場成功

2018年8月27日に中国仮想通貨(暗号通貨)取引所大手のHuobiが香港メインボードに上場を果たした際にリバース・テイクオーバースキームを活用したことが話題になりました。

Huobi創業者でもあり会長である李林(Leon Li)と烈変資本という名のファンドが、香港メインボード上場企業でありEMS企業である桐成控股(Pantronics Holdings)の株主から、それぞれに73.7%と6.8%の株式を譲渡され、実質支配者となったためです。

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実際に高額だった香港メインボードの”シェル”の価値

Coindeskによると、Huobiが株式購入に当てた金額は7,700万米ドルと報道されています。1米ドル=110円として換算すれば約85億円です。

一方で、2018年3月31日時点で桐成控股の半期のPLによると、当期利益で986千香港ドルで、1香港ドル=15円で計算すれば約1,500万円に過ぎません。ほとんど”シェル”だけの状態の上場企業が存在するということです。仮にこの企業のエクイティバリューを大雑把に計算して当期利益の10年分としてもたったの1.5億円です。

シェルに50億円以上の価値がついてることが分かります。彼が言うところの、シェルの価値が最低でも20億円つくというのはあながち嘘ではなさそうです。

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中国・中華圏投資家との話で気をつけるべきリスク

香港証券取引所の規制強化リスク

一方で、The Bridgeの報道によると、香港証券取引所は2018年6月時点においてリバース・テイクオーバースキームを使った裏口上場に対する規制を強化すること発表していたとのことで、現在は成り立つスキームであったとしてもそれがこれからも保証されているとは限らないことは大きなリスク要因です。

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香港人の金融感覚、”株屋”的な発想のリスク

また、我々が香港人投資家と話をしていて、彼自身、売却希望の対象企業の事業のバリューアップについてはあまり興味がないように見えました。

現時点での対象企業の革新的もしくは差別化領域がどこにあるのかということについては質問をしてきたものの、その後のトップライン、ボトムラインについての改善策についてはあまり興味を持っていないようで、ましてPMIについてはできればあまり関わりたくないという様子でした。

我々としては中国・中華圏の投資家にとってはもちろんのこと、日本の企業にとっても、そして中国・日本の消費者、生活者にとっても良い案件にしたいという想いがあり、当然ながらバリューアップを行うための戦略はその実行についてはコミットし、結果としてのイグジットを狙いたいと思っています。そこが彼と話が噛み合わない根本的な原因でした。考え方そのものが違ったということです。

良い悪いということではなく、このような考え方の差異があるということを理解しながら進めていくことで、中国リスクを減らしていくことが重要です。

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