中国ニューリテールの波は貧困農村をも救う | 20代が起こした”ヤーコンの奇跡”
中国ではアリババグループが提唱したオンラインとオフラインの融合による新たな生活基盤”ニューリテール”の躍進が注目を集めています。そしてその波は沿岸部大都市だけでなく雲南省の貧困農村にも押し寄せています。更に、その主役はアリババではなくピンドゥオドゥオなのです。
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中国雲南省の貧困村で脚光を浴びる不思議な農産物”ヤーコン”
雲南省の東南部に文山州丘北県という地区があります。数百kmの南方にはベトナムとの国境があります。そして、歴史的に貧しいとして知られています。県には50万人が生活をしており、その中には91の貧困状態にある村が存在しているそうです。
丘北県が属する文山州の97%は山岳地帯かつ赤土の土壌で、育てられる植物は非常に限定されます。村人によると、収入が得られる農作物や植物はとうもろこし、菊、そして雪莲果(ヤーコン)くらいであるとのことです。
丘北県では昔からこのヤーコンの栽培と販売をひとつの生業としてきましたが、交通の便が悪く、かつ販売価格は高く設定されていなかったため得られる利益は非常に少ないものでした。また、収穫までの時間が長いことや、収穫後に栽培できる植物が存在しないため、年々栽培量が減少しています。
そのヤーコンの需要が拡大し、村人たちの貧困脱出に向けて再び注目を集めているのです。
ヤーコンの原産地は南アメリカのアンデス山脈で、量的に考えると中国にとっても外来農産物と言えます。2004年に雲南省農科院経済作物研究所の専門家である李文昌の手によっって文山州丘北県にヤーコン栽培が導入されました。ヤーコンは非常に丈夫で育てやすく、成長するにしたがって手がかからないということもあり、農民たちに歓迎されました。
2004年に導入された当時の作付面積は250ムー(畝:約667㎡)でしたが。栽培についての問題は大きくありません。すでに沿岸部大都市地域でヤーコンは生活者に認知がなされ、需要も急拡大しているにも関わらず、村人は在庫はあれどどう売って良いのか分からないという状態でした。
李文昌は丘北県のヤーコンの現状についてこのように話します。一方で、年々、丘北村へヤーコンを買い付けにくるトラックの数が増え続けていることを村人は目にしてきました。
そして、中国の4, 5級都市に強いECプラットフォームである”拼多多(Pinduoduo:ピンドゥオドゥオ、以下:PDD)”上でヤーコンを販売する店舗が増加、それに並行する形でヤーコン作付面積も再び拡大トレンドに入り、2018年末には9万ムーであったそうです。2018年、ヤーコンはPDD上で2万トン近くが販売され、雲南省にもたらされた収入は8,000万元(約12億8,000万円)に達したとのことです。
話はそれほど単純ではありません。販売業者は農民に1トンあたり100元(1,600円)を手数料として渡していたのですが、業者は大ぶりなヤーコンのみを買い取り、形が良くなかったり小さいものについては買い取りませんでした。約2/3は買い取られずに余り、自然に腐るのを待って肥料にするしか方法はありませんでした。
PDD等のECプラットフォームにおける小売価格は500gあたり2〜7元です。一方で、農家が手にする価格は500gあたり手数料を含めてわずか0.6元です。利幅が最も大きいのは業者ということです。
そこで立ち上がったのが20歳代を中心とする若い農民たちです。”新農商(農業ニューリテール)”と呼ばれる彼らは、農作物を栽培して業者に降ろす形態をやめ、PDD等のECプラットフォームを活用して直販体制をとることにより、自前ブランドを育成する取り組みを開始しました。すでに商習慣は覆され、6月からは業者が中間マージンを大量に確保する状況はなくなったとのことです。
リーダーの1人である26歳の羅舒躍は以前は村の行政官でしたが、好奇心が強くECプラットフォーム上で服を売ったりしていました。このやり方が村の農業の困窮状態に活かせると考えたのが農業ニューリテールを立ち上げるに至ったきっかけでした。”90後(1990年台生まれ)”と呼ばれる今の20歳代がこの活動の中心チームとなって村の農業を牽引しているそうです。
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80後がアリババを、90後がPDDを担ぎ、中国のインターネットサービスのインフラ化は進んでいく
阿里巴巴(Alibaba:アリババ)はかつて中国の物流網のネックによる小売製品の地域不均衡に目をつけて、その格差を是正する機能の一つとして淘宝網(Taobao:タオバオ)をリリース、”80後”と共に成長し、今では中国人にとって当たり前のインフラになるまでに発展させました。そして、次は中国の”90後”がPDDとともに4, 5級都市という経済と労働のフロンティアを拡大していくという構図です。
国土が広く、経済の発展状況が不均衡である場合に公共サービスの不均衡を是正するインフラ型のサービスが市民権を得ていく典型的な構図です。タオバオからPDDへ向かう水平展開が、ヤーコンを軸に起こっているのです。