企業価値がすでに1兆円を超える物流テックユニコーンなど世界に存在するでしょうか。アリババグループCEOのダニエル・チャンが董事長として陣頭指揮し、9時間で1,000万オーダーを処理するこの神秘的な企業に迫ります。

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アリババの巨大ECの根幹を支えるデジタル物流ネットワーク

あなたたちに1,000億元(約1.6兆円)を渡すのは投げやりになったり、諦めたということではありません。本当に必要なので投資をするのです。

阿里巴巴(Alibaba:アリババ)の馬雲(Jack Ma:ジャック・マー)が菜鳥(Cainiao:ツァイニャオ)の経営層に向けた言葉です。

2017年9月にアリババは菜鳥の持ち分を47%から51%まで引き上げました。その中で、アリババグループとして将来5年間に1,000億元を継続的に投資し、中国国内出荷で24時間、全世界出荷で72時間必達の物流網の構築を目標にすることを宣言しました。

菜鳥の総裁である万霖の言葉を借りれば、

物流はインターネットコマースを支える重要な要素です。ECだけでなく盒馬(Hema:フーマー)などに代表されるニューリテールも含めて、彼らを上半身に例えるのであれば、物流は下半身、表裏一体であり挙動は一致している必要があります。

ということです。

2019年3月、アリババは物流会社の申通に対して46.6億元を出資、間接的に14.7%の持ち分を取得しました。この件に先立つ2018年には、百世の27.8%, 円通の17%, 中通の10%の持分を一気に取得しています。この4社は”快递”と呼ばれる宅急便のような物流サービスを提供する企業です。

アリババグループのCEOで、菜鳥の董事長も兼務する張勇(Daniel Zhang:ダニエル・チャン)は、

菜鳥にとって物流はやらなければいけない機能の一つとは言えますが、菜鳥は単なる物流会社であるということは間違いです。菜鳥のコアは技術であり、テクノロジーカンパニーなのです。

物流産業について言えば、物流に関わる要素が全てデジタル化された今日以降、菜鳥は物流業界全体に対する構造改革の根幹となる可能性があります。現在、菜鳥は静かにその改革の推移を体感しつつあります。

と述べています。

2018年、菜鳥は”一横二縦”という五カ年計画を発表しています。一つの横はデジタル化の基盤の建設を意味しており、二つの縦はニューリテールにおけるサプライチェーンの構築と、グローバル化の推進を意味しています。

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中国ニューリテール物流三国志

この5, 6年で企業価値が1,000億元(約1.6兆円)を超えた菜鳥ですが、物流を巡る議論で彼らと常に同じテーブルに上るのは、京東(JD)物流と順豊です。

この三者では物流について描く未来が異なります。菜鳥は物流ネットワークの構築を目指しているのに対して、JD物流は自前での倉庫と配送網の最適化に注力しています。菜鳥のネットワークは広範に渡り、かつ柔軟であり、JD物流も彼らのネットワークの一部分になりえることも意味しています。

順豊は配送会社であることに間違いはなくB2B物流をメインターゲットとしており、菜鳥やJD物流がEC顧客をターゲットとしていることとは大きく異なります。一方で、コンフリクトが発生する場面も少なからずあり、三者間での争いが激化しています。

2017年6月1日、菜鳥と順豊がお互いにデータのやり取りを封鎖するという事件が起こり、その翌日に中国郵政(チャイナポスト)の仲介により和解が成立しました。また7月にはJD物流が配送会社である天天快递、円通をプラットフォームから締め出し、2018年末にはJD自らが配送業務を行うことを発表、外部からは順豊の業務を奪い取ることを目的としたものであると見られています。

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世界中の商品が3日以内に手に入る中国人の生活を支える菜鳥

菜鳥が処理するオーダーの大半はアリババグループの越境ECプラットフォームである天猫国際(T-Mall Global)によるものです。中国の生活者の海外商品に対する意欲は旺盛です。インターネット時代では世界の情報をほぼ同時に中国国内でも手に入れることができます。そして、何よりも、中国人は公私ともに渡って全世界に展開しています。

2018年時点で菜鳥は100を超えるグローバル物流パートナー、231の越境物流倉庫を持ち、224の国家・地区をカバー、9時間で1,000万のオーダーを処理し、ヨーロッパ諸国から中国の消費者の手元まで72時間での荷物到着を実現しています。

中国人の旺盛な消費意欲を支えるアリババグループの”下半身”としての菜鳥。JD物流や順豊も含めてグローバルニューリテール時代の三国志の行方について、非常に興味深いものとなりそうです。

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