”インバウンドのおわりのはじまり、はじまりの終わり”で伝えたかったこと(再掲)
2016年2月11日にnoteに書いた文章、まだ状況も変わっていないなと思い、再掲します。
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外国人による”爆買い”で踊る風潮への違和感
”爆買い”が流行語大賞に選ばれました。昨晩の食事の席における友人経営者との話の中で、違和感しかないという意見で一致しました。自分も初めて知りましたが、流行語大賞には明確な受賞対象者がいて、今回の”爆買い”については、ラオックスの社長が対象者でした。
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ラオックスは既に中国の蘇寧電器に買収されており、中国資本の企業です。また、ラオックスに家電を買いに来る中国人旅行客は団体であることが多く、大型バスに乗りつけて大量にやってきます。そしてこのブッキング、アテンドをしているのは中国系の旅行会社・代理店です。
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このビジネスの中で、日本政府が得る税金、厳しい仕入れ価格を呑んだ日本のメーカー以外にはお金は落ちません。税金にしても、外国人旅行客が母国で使用する商品については消費税が免除されますから、残るはラオックスや日本法人化している中国の旅行社からの法人税くらいです。
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中国企業が上手く儲けたということで、それはそれで素晴らしいことではありますが、流行語大賞に選ばれ、何も考えず報道するマスメディアや、それについて何の疑問も抱かない大衆がいるのだとすれば、日本人として悲しいことだと思います。
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更に踊る”インバウンド”という単語
Groo Inc.は人とお金のインバウンドということで、この単語を使い続けてきました。その立場で敢えて書きますが、昨今ようやく市民権を得た”インバウンド”という言葉の使われ方にも違和感を感じています。元々は旅行業界が”アウトバウンド”とのセットで使っていた専門用語ですが、”インバウンド”=訪日外国人と捉えるとして、彼・彼女たちに何を提供するのかというところが非常に軽く捉えられているように感じます。
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”インバウンド”の後に続く言葉は”爆売り”だけなんじゃないの?
という意味で捉えています。外国人が沢山来ているようだし、日本人はモノを買わなくなってしまった中で、彼らに何でも売ってしまえ!という安易な考え方がこの英単語を利用することで、恥ずかしくなく言えるようになった、そういうことじゃないでしょうか。言い過ぎでしょうか?
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焼き畑で終わる可能性が高い1.2兆円という市場
ある企業の記事にて、中国との越境ビジネスのイン・アウトの双方を合計した結果として約1.2兆円の市場規模となったとありました。1.2兆円の市場規模をどう捉えるか、です。中国の経済成長は減速傾向にあるとは言え未だに7%以上の成長をしています。その中で土地と情報を握る一部の富裕層だけでなく、中間所得層が出現し、消費意欲と旅行ブームが立ち上がり、更には人民元と政治リスクを避ける意味で、海外に消費意欲が向いているのは事実です。
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しかし、彼らは自らの資産の使い方には非常に慎重です。だからこそ情報を集めます。中国はクチコミの国です。他人を信じない国であるからこそ、家族や親しい友人などのクローズドサークルで得た情報を信用します。そこに、微信(wechat)に代表されるモバイルインターネットによるシェアの拡大で、有益な情報が人づてに均質に広まる素地ができました。既に買い物リストが出回っているのはご存知の通りですが、故に日本製品の中で売れる商品には非常に偏りがあります。
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売れる商品は常に品薄状態。そしてすぐに移ろってしまう。売れているメーカーも明日どうなるかは分かりませんし、買い物リストに載せることができない、渋いメーカーは広告宣伝にそれほどお金をかけることもできないため、手の打ちようがありません。当たればラッキー、飽きられれば終わり、イナゴの大群か、焼畑農業か、そんな趣きです。
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不誠実な爆売り支援プレーヤー
年末に向けてここ1, 2ヶ月はインバウンド系のセミナー目白押しです。自分もその片棒を担いでいるのは承知で書きますが、正直どのセミナーを見ても面白さを感じません、いや正確に言えば誠実さを感じないと言った方が適切かもしれません。中国向けの越境ビジネスは商品先物取引と非常に似ています。中国人の買い物リストに載った商品の情報をいかに早く手に入れて、リスクを投じて日本側で仕入れ、一気に売り切ってしまう、そういうビジネスです。そして、売れる商品は非常に限られているので、最初は良い価格で売れていたものが、競合する販売プレーヤーの出現により、どんどん価格が下がっていきます。
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こうした状況下、セミナーで語られる言葉は、「買い物リストに載せましょう」、「そのためにしっかり広告投下しましょう」というものばかりです。売れる商品は限られているにも関わらず、ニッチな商品をつくるメーカーや、それを集める小売店などにこうした言葉を軽々とぶつけていくのって、本当に正しいことなのでしょうか?
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買い物リストに入るためにはそれなりの露出が必要です。リストへコンバージョンするところまででも相当リスクがあります。その上で、実際にネットショップやリアル店舗で売上に繋ぐことは至難の業です。しかし、越境ビジネスを支援するプレーヤーは、そういうことばかりを続けています。
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体験を重視しない日本のマーケティング
話は飛びますが、寺村は一般論、平均値的な話として、そもそも日本企業にはマーケティングというものが無かった、と思っています。元来、日本のものづくりは職人技。職人はこう言います。「俺のつくったものだから間違いない」、「売れないのは客の見る目がないからだ」と。しかし、それで良かったのです。そこには、「俺」と「客」がダイレクトに繋がる、リアルの場があるからです。職人は客を厳しく見る一方で、客は職人がつくったモノをしっかりと吟味していました。そして、贔屓にする、されるという関係が、リアルな体験として出来上がっていたのです。
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しかし、昨今の”爆買い”、”インバウンド”、”越境EC”は、結局運良く売れた日本企業の一部の製品に後追いして、外国人の財布の狙えるから、今までの商品を外国人に売ってやろうという下心が露骨に現れたムーブメントであると思っています。しかし、こういった購買行動をする外国人旅行客、消費者たちに”次回”はあるのでしょうか、ありません。理由は前述した通りです。
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「俺」と「客」のリアルな対話の体験なくして、「次」はないということです。日本企業の大半はものづくりの技術者が、マーケティング・セールス部門と切り離され、ものづくりの現場が顧客と繋がっていない中で、更に企業が越境ビジネスにおいて外部の企業を使おうとする・・・、どう考えても上手くいきそうにありません。
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顧客軽視で”茹で蛙”化するものづくり
また話は変わりますが、日本企業ははるか昔に社内情報システム部門をスリム化し、分社化したり外部企業にアウトソースするようになりました。日本には子会社系のシステムインテグレーターが山のようにいます。しかし、アメリカや中国はそうなっておらず、強固で堅牢な情報システム部門を社内に置いています。Apple社は世界中で使われているiPhone端末のユーザーインターフェース(UI)を改善するために、ユーザーのログを社内で細かく分析し、開発(ものづくり)サイドにフィードバックしています。
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一方、日本企業は自社で持っているデータのハンドリングどころか、何のデータを持っているのかすら外部企業に問い合わせなければ分からないという状態です。これは、マネジメントコンサルティングを生業としている寺村が現場で見てきた事実です。顧客の情報が無い状態でものづくりをし、製造と販売が分離された状態でモノを売り、更に外国人に神頼みをするために、外部企業のサービスを使う、これが現実に起こっていることです。
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技術者や技能工、職人が高齢化し、そして彼らの待遇が上がらない日本において、「日本のものづくりは素晴らしい、後は売るところだ」なんて意見は寝言です。実は、ものづくりの根本的な部分が死に始めているのが、今の日本です。それを売れるうちにたたき売ってしまおうと言っているのが、今の”インバウンド”という言葉に象徴される動きです。
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やるべきことはものづくりの再生
今やるべきはものづくりの再生です。”爆売り”では根本的な課題は解決できません。僕らの下の世代は生きていくことはできません。外国人にどうやって売るのかを考える以前に、日本人にもう一度どうやって価値を提供できるのかを深く考えて実行することです。そのための、エコシステムをどうすればいいか、を考えなければならないのです。資産の切り売りのゼロサムではなく、資産を増やすプラスサムの考え方です。
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世の中に新しい価値を提供するためには、マクロ、ミクロでのインプットと、様々な角度からのアイデアをぶつけるカオスが必要です。自分が見てきた限りでは、大企業にはこれができません。均質化された従業員が、社内の理論で動いている限り、新しいものが生まれてくる可能性は極小です。
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カオスを生み出すのは多様性。その多様性を否定してきた日本の大企業が変わらなければなりません。これを解決する新しい動きとして、crewwさんが取り組むオープンイノベーションのプラットフォームはとても面白いものだと思っています。これは大企業とベンチャーをぶつけることによるカオスの醸成。
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そして、今後面白くなると考えているのは、地方と外国人による新たなカオス。都内から地方に優秀な若者が移住する動きが出始める中、伝統産業、工芸、技能が残り、美しい自然があり、かつ大学がある地方にはまだまだポテンシャルがあります。若者と外国人、彼らが新しい視点や価値観、文化、技術を持ち込むことにより生まれるカオスにGroo Inc.は挑戦していきます。壮大なテーマですし、なかなかシンプル化できてはいませんが、有志たちと具体的な取り組みにしていこうと考えています。
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