中国フィンテックの巨人アント・フィナンシャル。アリババグループの金融サービスの根幹を握り、主要サービスのアリペイのユーザーアカウントは10億を超えています。そのフィンテックの巨人が世界最大の投資運用会社と手を組みました。

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中国アリババが組んだのは世界最大の投資運用会社であるヴァンガード

中国で法人を登記する対象は中国工商行政部門です。2019年6月5日時点で、中国のキャッシュレスの巨頭で阿里巴巴(Alibaba:アリババ)グループのコアサービスである支宝包(Alipay:アリペイ)を提供する”蚂蚁小微金融服务集团股份有限公司(Ant Financial:アント・フィナンシャル)”が”先鋒領航投顧(上海)投資諮詢有限公司”という会社に出資をしていることが明らかになりました。

驚くべきはその登録資本金で、何と2,000万元(3.6兆円)なのです。

新会社の法定代表人は浙江網商銀行股份有限公司の頭取兼執行董事である黄浩、アント・フィナンシャルが51%を保有し、残る49%を投資アドバイザリー業務を経営範囲とする先鋒領航投資管理(上海)有限公司(以下:先鋒投資)が持つ形です。

この先鋒投資という会社、初めて目にする方がほとんどだと思いますが”先鋒”という漢字は”Vanguard”という英単語に対する中国語での当て字です。そして、ヴァンガードは米国発祥で運用総資産約549兆円を誇る世界最大のミューチュアル・ファンドのことを意味しています。先鋒投資はこのヴァンガードの中国上海市における独資外資企業なのです。双方ともにこの新会社についての公式なコメントを出してはいませんが、実体としては中国のフィンテック最大手と世界最大の投資ファンドが手を組んだということです。

ヴァンガード社はこの案件以前にはいかなるパートナーとも組んだことはありません。1975年にジョン・ボーグによって設立された当ファンドは2017年5月に上海市に独資形態で会社を設立、上海環球金融中心(森ビルが上海市の浦東地区に建てたオフィス・商業複合高層ビル)に1,500㎡のオフィスを構えました。

ブラックロックやフィディリティと異なり、ヴァンガードは先鋒投資の設立以来、プライベートエクイティに関する経営許可を申請していません。ヴァンガード本体はオープン・エンド型の公募ファンド、すなわち投資信託のように誰でも、いつでも参加・脱退が可能な形態でのファンド運用を強みとしており、いまだかつてPE形態でのファンドを設立したことはありません。

また、ヴァンガードは世界で他社に先駆けてインターネット上でファンドを発売した会社として知られています。中国基金(ファンド)協会が発表したレポートによれば、中国の若い世代からネット上で投資商品を購入することはますます一般的になりつつあるとのことです。ヴァンガードが中国最強フィンテック企業であり、世界で10億のユーザーアカウントを持つアリペイを司るアント・フィナンシャルと組むことの背景はこのあたりにありそうです。

アント・フィナンシャルはヴァンガード以外にもフィディリティと共同で資産運用会社を設立しています。当企業は2018年8月には”中国養老投資者教育相関領域開展のための5カ年計画”を発表しています。アント・フィナンシャルとしても、投資運用分野におけるグローバルトップ企業と組むことにより、自身が持つ顧客アセットとパートナーが持つ資金のシナジーを生むことができると考えているのです。

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3.6兆円の資本金の行方は?

アント・フィナンシャルはアリババグループが提供するエコシステムにおいて決済に代表されるコア機能を担っています。10億を超えると言われるユーザーアカウントを防衛・拡大していくためにも常に新しいサービスをエコシステムの中に取り込んでいく必要があります。なぜなら、微信(Wechat:ウィーチャット)を持つ腾讯(Tencent:テンセント)グループと互いのエコシステムについて激しい奪い合いを展開しているためです。

あらゆる領域で展開される競争は世界トップの投資ファンドも巻き込んで繰り広げられていきます。3.6兆円とされる登録資本金、これは現時点で3.6兆円のお金が口座に振り込まれている訳ではなくあくまでも行政当局にいずれかのタイミングでその金額まで資本金を積みますことを約束した金額のことを指しています。ヴァンガードの特徴からしても巨額の資本金によって中国の未公開企業に対するM&Aを加速することは考えにくいことは事実です。一方で将来的に潤沢な資金を中国企業に広く浅く投資し、新たな商品を開発することも考えられます。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドのようなスケールの大きな話が中国でも展開されようとしています。今後の動きに注目です。