中国のスポーツアパレルのダークホース”特歩(Xstep)”, 渦中のデサントにも絡む安踏(ANTA)に挑戦状

中国で新しい「靴王」が現れました。中国のスポーツシューズブランドコングロマリットである”特歩(Xstep:エクステップ)”は、同市場の巨人である”安踏(ANTA:アンタ)”、そして北京五輪の聖火リレーのアンカーを担った伝説の体操選手が立ち上げた”李寧(Lining:リーニン)”というトップ2ブランドを猛追しています。中国のスポーツアパレル業界は2022年の北京冬季五輪に向けて一大チャンスを迎えており、そこに日本の業界再編の動きも影響を受けています。具体的に見ていきましょう。

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中国で6,200を超える売り場を展開

特歩は2001年に設立された比較的新しいアパレルブランドで、自社でマーケティング、R&D, デザイン、生産、販売の機能を持ち、直近で6,200店舗を超える小売店を傘下に有しています。アパレルと言ってもメインはスポーツアパレルで、ファッション系については補完的な位置付けです。

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創業者の丁水波が人生で初めて稼いだのはアイスキャンディ

特歩の創始者である丁水波は福建省は晋江の貧しい家庭に生まれました。唯一の男手であった彼は他の家庭の男の子よりも色々なことを小さい頃からやらなければならず、8, 9歳の頃には油条(揚げパン)やアイスキャンディを街で売る仕事をしていました。

17歳に鳴った彼は家庭を養うために1人家を出て革靴店に弟子入りします。そこで着実に靴の製造技法を身に着けていった彼は、独立することを決意、2人の兄弟と呼べるほどの友人と共に会社を立ち上げ、自社での靴の製造販売を開始します。

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当初は細々と靴工場を経営、規模拡大を考えず

創業当時は完全な手工業で、数人の工場スタッフとともに簡単な靴を作っては街の市場で細々と販売していましたが、商売としてはなかなか上手く行きませんでした。ところが、ある成都から来た商人が彼らの靴の代理商になり、他の都市の市場で販売することを提案してきたのです。これが今の特歩を方向づける第一歩となりました。丁水波は当時のことを思い出して「当時の自分は家族とその周辺を養えればそれで良いと思っており、大幅な規模の拡大は全く考えていなかった」としています。

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2000年以降、中国人の生活水準の上昇とともに急成長

2000年代も中盤に入り人々の生活水準が上がるに連れ、スポーツを愛好する動きが出始めたことに丁水波は気づきます。更に、この領域において製品を供給している企業が非常に少ないことを知った彼は、今までの蓄積を一気に設備投資に回し、品質管理に力を注ぎ、初めてのスポーツシューズを世に出しました。

特歩のスポーツシューズは市場から好評され、一気に立ち上がりつつあるスポーツアパレル市場の拡大と共に、彼らも生産規模を拡大します。谢霆锋や潘玮柏、蔡依林などのスーパースターをブランドキャラクターに起用し、1年に1SKUで120万足を売り切ってしまうという伝説を作り、市場にダークホースが登場を知らしめることになったという訳です。

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中国トップスポーツアパレル安踏を猛追

現在、特歩は中国スポーツアパレル業界の巨人である安踏(ANTA)をライバルとして猛追しています。2018年に6,000億円で欧州のアメアスポーツを買収しグローバル総合ブランドとしての基盤を固めていく安踏に対し、特歩はまずマラソン業界に照準を合わせています。マラソン関連アパレルにおいて特歩は中国国内ではトップ、世界では第4位の実績を持っています。2019年には中東や中央アジアなど未開拓市場への切込みや、安踏と同様に国際ブランドとのパートナーシップによる総合ブランド化を目指しています。

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伊藤忠商事のデサントに対するTOBの背景には中国ものづくりについての考え方が

さて、話はここで終わりません。この特歩が戦略に掲げている海外ブランドとの協業は、スポーツアパレルに限らず中国のブランドオーナーにとっては鍵となる戦略なのです。上述した同業の巨人である安踏(ANTA)は、2019年3月14日に伊藤忠商事によって敵対的TOBを成立されたデサントの少数株主でもあり、そのデサントの中国販社は安踏が40%, 残りをデサントグループ、伊藤忠商事が出資しています。安踏は欧州のアメアスポーツを買収して総合スポーツアパレルブランドを形成しつつ、デサントが持つきめ細やで効率的な製造ノウハウを、更にはブランドを獲得したいという思いがあるのです。中国ブランドが国内市場で成長した後に踊り場に立った際の次の一手はこのような形になります。

さて、そのデサントは伊藤忠商事による敵対的TOBの成立を受けてようやく協議のテーブルにつきましたが交渉は難航していると言われています。一方で、伊藤忠商事は自社の持ち分40%に加えて、安踏の持ち分などを合わせると実質過半数を取得しているものと考えられ、伊藤忠商事の提案を飲まざるを得ない状態です。既に成立してしまったTOBですが、この期間の中で、李寧や特歩はどのように趨勢を見守っていたのでしょう、気になるところです。

中国最大のスポーツアパレル安踏についての記事はこちらへ。

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