逆境指数を鍛える!中国小米の雷軍CEOが娘の教育について清華小学校で語る
皆さんこんにちは。このような機会を頂くことができ、清華附属小学校に親御さんの皆さんが参加する”家族・学校コミュニティ”の活動に参加することができて本当に光栄です。私の子供は清華付属小学校の二年生になります。この2年間、私は2年前の選択が正解であったことを深く感じ入っています。私は皆さんが2年後に同じように感じると確信しています。
2つの具体例から
まず最初に、私は子供と多くの接触機会がありますが、会うたびに彼女が先生に微笑みかけていたり、同級生に呼びかけていたりすることを見るにつけ、一瞬で子供が成長し、礼儀を身につけ始めていることを発見することができるのです。二点目、清華付属小学校では”1+Xクラス”という指導方法を採用しています。私は最初何のことか分かりませんでした。その後、私は彼女が体操部と合唱団に加入していることを知りました。更にその前の時間にはサッカー部に参加していることを知りました。私は彼女にサッカーをやったことがあるの?と聞きました。彼女はベンチを温めているのだけれども、どの活動にも積極的に参加をしていて、前の日には興奮してあまり寝られないと言います。参加した後は私を捕まえてずっとその話をしています。親であるにも関わらず私は今まで清華付属小学校の教育理念と教育方式についての研究をしたことはありませんでした。私はこの2点の具体例から、清華付属小学区の全方位的な教育・育成の理念について理解することができました。
励まして、褒めることを主とした教育
私の子供は小学校二年生です。彼女は過去に何度も清華付属小学校で受賞した各種の表彰状を見せてくれました。そこには窦校長からの校長賞を2回受賞したことも含まれていました。当然、私は彼女が清華付属小学校で最も優秀だとは思っていませんが、先ほどクラス担任の先生がした話から想像するに、校長はこのような方式を使うことで色々な子どもたちを激励しているのだと思いました。”褒めること”は子どもたちにとって何が大きいのでしょうか?彼女は少なくとも4回私に表彰状を見せてくれました。また、書類ファイルの中には十数枚の表彰状が丁寧に保存されていました。更に重要なことは彼女が毎日カバンに入れて持ち歩いていたことです。私は彼女に、落としたらどうするの?と聞きました。彼女は、絶対にカバンに入れておくの、と聞きません。カバンの中に入れていたら丸まってしまうよ?とも言いました。彼女はまたも、絶対にカバンに入れておくの、と言うのです。
清華付属小学校が子供を激励し褒めることを主として教育する方式をとっていることが格別に好きなのです。このような教育は子供の情熱を積極的に引き出します。過去2年間、彼女は学校に行くことが大好きで、毎回通学する際は楽しくて仕方が無いといった様子です。学校が私たち親に与えるインパクトは巨大です。親として人との話の中で、どこどこの学校が良い悪いという話題が上ることは少なくありません。ある人は私に子どもをこのような学校に入れることは大きな負担になるからやめておけと言います。多くの重複する宿題を出し過ぎることがなければ、それで良いと思っています。もちろん、子供の教育についてのは、私自身が不見識であるということを常に感じています。なぜなら、私は仕事が比較的忙しく、子供の教育に割くことができる時間はそれほど多くないからです。しかし、できるだけ時間を作って子供を助けてあげたいと努力しています。どの親御さんも恐らく私と同じではないですか?自分の子供がしっかりと成長し、あらゆる面で優れ、学校でも好成績を収めることを望んでいると思います。皆さん一緒ですよね。
AQ(Adversity Quotient:逆境指数)について
AQ(IQ, EQに続く概念で精神の強さを図る指数のこと)については、学校の成績よりも重要だと思っています。皆さんは子供に対してIQ, EQ, AQの全てが優れていて欲しいと思いますね。EQとAQのどの点がIQよりも重要だと思いますか。今日清華付属小学校にやってきて、どの子供もIQについて非常に優れていると思いました。問題は、学校教育を前提とした場合に、私たち親は何をすべきかということです。IQを伸ばしていくことについて重要なことは子供の興味を引き出してあげること、子供の学習への興味を育んであげること、彼・彼女たちが学ぶ方法について手伝って上げることですね。これ以上IQの話をすることはやめておきましょう。
EQの核心は人に対する能力、チームワークに対する能力です。私の娘はサッカー部に入って毎日とてもエキサイトしています。クラスには30数人いてその3分の1がサッカー部に入っているそうです。それでも彼女はとても楽しいと言います。私は彼女がサッカー部に参加することを応援しています。サッカー部では子供のチームワークの能力を高めることができます。応援部員だったとしてもその場にいて選手を鼓舞することは一つのチームへの参加なのです。
皆さんが重視する点には更にAQがあります。AQの核心は困難や挫折に対してどのように打ち勝ち、その後前進することができるかということです。今日の社会において、競争は非常に苛烈です。誰もが皆プレッシャーにさらされる中、あれやこれやといった困難をどのように突破していけば良いのでしょうか。近頃の親御さんは子供に対して寵愛、過保護の傾向がありますが、結果として彼・彼女たちが成長していく中で、将来社会に出て行く中で、逆境を克服していくことを難しくしています。ですから、本日私は皆さんに対してIQとEQ以外に、どのようにしてAQを育んでいくことができるのかということについてシェアをしたいと思います。
学ぶ力の大切さ
2010年私はスマートフォンを作りました。多くの人はそのことについて良い反応ではありませんでした。このことは絶望に近い経験です。しかし、私は重要なのは学ぶ力であると考えました。学力があって、目標をしっかりと固めることができていれば、多くの困難を克服することができます。大学時代の教授が仰った言葉を覚えています。生まれ変わったら何を目的にして大学に通うでしょうか?と。彼曰く、大学に通う目的はとても簡単です。一連の物事を学習することで卒業することができます。これが学習能力(学ぶ力)です。大学院生になって学ぶのは仕事の能力です。
私は子供、もしくは教育で最も重要なのは知識を教えることだけではないと思っています。重要なのは学ぶ方法を教えて、彼・彼女たちの学ぶ力を高めていくことにあります。学ぶ力があれば、いかなる困難に遭遇してもそれを克服することができます。どれだけ変な領域であっても成功することができるでしょう。これは、私が小さかった頃、父親に教わったことでもあります。
小さい頃、私はラジオやテレビを組み立てるのが特段好きでした。父は応援してくれました。このような趣味は親の支持がなければ到底することはできません。ラジオやテレビの部品は当時とても高価でしたから。しかし、父はお金を使って私に部品を買ってくれました。子供の頃に無線の興味を養った私は40歳で再び起業するに至り、スマートフォンの領域を選んだのです。子供の頃に芽生えた興味が、中年になってチャンスを掴むことに繋がったのです。こういうことは人生の楽しみのひとつですね。
子どもと友達になる
私が子供にできる最大のことは何でしょうか?それはどうやって子供の友達になることができるかを考え続けることです。子供が反抗的だと思うことはありませんか。私の娘も7, 8歳の頃にとても反抗的で、話を聞かせることが非常に難しかった。重要なのは、皆さんが子供の友達となり、彼・彼女に寄り添ってひとつひとつの事情を聞いてあげることです。この点において私は多くの方法を考えました。例えば、娘と一緒に自転車に乗ることです。彼女は自転車にとても興味を持ちました。近所の小さな子が自転車に乗っているのを見て、欲しいと言いました。まず補助輪がついた自転車に乗ろうと提案しましたが彼女はダメと言いました。そこで補助輪なしの標準的な自転車に換えました。週末に時間を見つけて彼女と一緒に自転車に乗りました。とっても楽しそうでした。
その後、北京はPM2.5の霧に包まれ、自転車に乗ることができなくなりました。そこで、少なくとも大学に行くまで彼女と一緒にできる運動の中で、私が友達になれるものは何かと考えました。思いついたのはスキーです。スキーは家族やチームで遊ぶのに最適です。スキー場で過ごす時間の90%はリフトの上ですから、交流する時間はたくさんあります。また、北京のスキー場は待ち行列が比較的長いということもあります。寒空の中で2人はリフトの上です。いつもの会話とは違う特別なものになるはずです。この話は皆さんに是非紹介したいと思っていました。どうやって子供と友達になるのか、ということです。
どれだけ忙しくても子供につきそう時間を作る
二つ目は勉強についてです。誰でも子供には良い成績をとってもらいたいと考えますよね。中国の現状ですから。私だって子供には良い成績をとってもらいたいと思っています。毎日子供の宿題を見てあげる人もいるでしょう。しかし、私は時には我慢できなくなることもありますし、何より時間が無いので、子供の宿題は基本的には見ずに、週末だけ付き添ってあげることにしています。その時、私は彼女を笑わせてあげます。何が得意なの?彼女が英語が得意と言えば、私は数学が得意と答えます。彼女が私に英語を教えて、私が彼女に数学を教えるよと。彼女はとても楽しそうです。その単語の使い方は間違ってるよと、二回繰り返して教えてくれました。先生役をする彼女は本当に本当に真面目なんです。
多くの親御さんが毎日子供の宿題に付き添おうとしていますね。現在の子どもたちには子供っぽいところがあるので、付き添う時間が長くなると子供たち自身が我慢できなくなったり、話をすることに疲れてしまうことがあります。毎日付き添う必要はないのです。できた宿題のチェックをしてあげることで良いと思います。更に言えば、毎週必ず1, 2時間を捻出して、子どもたちと一緒に座り、まじめに彼・彼女たちの事情に向き合ってあげることの方が重要です。
まとめると、私が子供の教育において重要だと思うのは3つの方向から考えるということです。IQ, EQ, AQの3つの方向から子供の育成を考えるということを話してきました。もちろん、全ての親御さんたちは教育に対する専門家であると思っています。一方で私は仕事の関係上、皆さんよりも子供に充てる時間は確実に少ないのですから。
窦校長が1ヶ月前に私にこの講演の依頼を持ちかけられた時のこと、皆さんに包み隠さずに言えば、正直聞いた瞬間に大量の汗が吹き出しました。昨晩、小さなノートを用意して今日の講演で何を話すかについて準備もしました。私は今日、子どもたちの親として学校への感謝を伝えに参りました。教育理念についての話は私の強いところでもありません。これだけ長い時間を頂きながらも、私が昨夜準備に使った時間は15分だけです。そして、ここまでの話が、昨晩私が準備をした内容についての全てです。
皆さんのお子さんたちがすくすくと楽しく過ごされることを祈っています。そして、皆さんが子供にとって非常に素晴らしい小学校を選ばれたことを祝福します。窦校長が私に清華付属小学校での講演依頼をししたことに対してではなく、あくまでも私の娘がここで2年間を過ごさせて頂いたことについて、窦校長、先生たちに、そして全ての皆様に心から感謝を申し上げます。ありがとうございました!(2014年7月12日)(BiaNews)
編集後記
インドへの進出、特許係争など小米のCEOとして当たらなければならない事は非常に多く、それらについての発言は多く見ることができる雷軍(レイジュン)CEOが、子供の教育について親御さんたちを前に話をした貴重な内容です。親としてのレイジュンの厳しくも暖かい視線が感じられます。一方で日本人として幾つか気になるポイントがあります。
- 中国が子供の頃から超競争社会である
- 子供についても成績至上主義が基本である
- IQ, EQ, AQの3つの概念が普通に親御さんの間で使われている
- 小学二年生時点で英語の授業がある
- 親が子供に対して過保護、過干渉である
- 部活動が珍しい
- 大学院は仕事を覚えるところと定義されている
似ているところ、違うところがありますね。似ていたところと言って良いかもしれません。日本のかつても超競争社会であり成績至上主義でしたから。しかし、ゆとり教育以降、その傾向も収まりました。AQ(逆境指数)という言葉は日本人には新鮮ですが、非常に面白いポイントであると思いました。競争が激烈化している社会の中で、プレッシャーを跳ね返し、克服していくための胆力についてレイジュンは「学ぶ力」として定義しています。また、自分が知る中国の教育環境には勉強以外の活動はほぼゼロだったと認識していましたが、清華付属小学校のような名門から部活動を取り入れていることは注目に値します。個々人は優秀でも組織力、チームワークが苦手と定義されがちな中国人ですが、それも変わってくる可能性があります。
このような競争環境をくぐり抜けてきた人々と私たち日本人は同じ競争環境に乗っているということです。これは良い悪いの価値判断ではなく、単なる事実でしかありません。自分が接する日本の大学生たちは大陸の若者たちと比べて非常に考え方が幼く見えます。もちろん、自分自身が学生時代だった時のことを考えてもその状況は大差ありません。日本は教育関係者が尊敬されていません。それは尊敬されない状況を作ってしまった教育関係者側に大きな問題があります。それを是正する力は持ちえていないように見えます。子供の教育を考える際に、日本だけで教育することに大きなリスクがあるということを少なくとも認識すべきであると考えます。子供の教育について、近くの幼稚園、小学校からということだけでなく、もっと大きな選択肢の中で考えるということを意識すべきです。現実に直面するのは親ではなく子供なのですから。