驚愕の1日416億円”爆売り”中国シャオミを支えるトヨタ式”JIT"物流システム
小米(シャオミ)の五周年を記念して「米粉節(こめこ祭り)」 と称して2015年4月8日に製品の大売り出しキャンペーンが張られたことは記憶に新しいと思います。小米の公式発表によれば、キャンペーン開始後1分ででPVが1,700万、8分30秒で売上が1億元(20億円)を突破し、終了後にはスマートフォンが212万台、売上が21億元(420億円)を記録したというから驚きです。
小米は大型キャンペーンを張った後には必ず物流出荷に関する数値を発表しています。CEOの雷軍(レイジュン)、総裁の林斌は物流センターに赴いてスタッフの出荷作業を必ず見学しています。京東(JDモール)が物流に強みを持っていることは有名ですが、国内ナンバー3のECプラットフォームである小米網の物流システムについて知っている人は多くありません。小米が公式に発表するところによれば、”こめこ祭り”で注文を受けた製品については全て7日間以内に出荷を終えるとしています。では、毎回のキャンペーンで数百万件を超えるオーダーを小米はどのように一週間で処理しているのでしょうか?小米の物流システムの優れた点、劣った点は何でしょうか?それを紐解く前に、キャンペーンの基礎データを見ていきましょう。
小米の歴代キャンペーンにおける成果
2013年に小米は”双11(11月11日のECサイトでの爆売りキャンペーン期間)”に初めて参加をしました。”こめこ祭り”も含めて、過去のキャンペーン成果を数値で表したのが下記の表です。
小米は2013年の”双11”でキャンペーンを開始した後、2014年の”こめこ祭り”から”双11”までの7ヶ月間に日次最多出荷量が53万から94万件まで177%も増加しています。この間に小米は新しいデリバリーセンター(DC)を建設、出荷能力の増強を図ると同時にマネジメントの精緻化を行っています。
そして2015年の総オーダー数は305万件とかつての”双11”の数倍のオーダーを記録しました。小米の出荷能力から考えると、公式発表された7日間で全ての出荷処理を終えるということは相当難しいことです。12時間以内に出荷できるオーダー件数は既に50万件を超えているということを意味します。しかし、当日の12時、”こめこ祭り”の2回目のピークを迎えていた頃、微信(weibo:マイクロブログ)上で既に出荷オーダーを受け取ったというユーザーのポストが見られました。
小米によると、今回の”こめこ祭り”キャンペーンに勝利するために、物流チームでは1,300人のスタッフを新たに雇い入れ、総数は2,600人になったそうです。また、”こめこ祭り”の前に西安、厦門(アモイ)に新たしいDCを建設すると同時に、その他のDCでも拡張工事や戦術の再設定などを行ったそうです。小米には自ら建設した12ヶ所のDCを保有しています(北京、上海、深セン、生徒、武漢、瀋陽、南京、広州、天津、鄭州、西安、厦門)。その内6ヶ所は24時間止まること無くオペレーションがされています。 更に、小米では順豊などの運送業者による24時間の荷受を歓迎しており、6ヶ所のDCではトラックが間断なく荷受けをしています。順豊も小米のために優先的に配車をするサービスを提供しています。
”ネットワーク思考”を信奉するレイジュンは、マーケティングについても各エリア・各拠点でのマネジメントに任せるようにしています。小米のように資産をあまり持たない企業にとって物流コストは利益獲得、キャッシュフロー確保という意味でも大きな影響があるコストです。それでは、小米の物流にはどのような秘密が隠されているのでしょうか?強みと弱みは何でしょうか?
1. DCを自社建設、物流は主要3社へアウトソース
京東(JDモール)が自ら建設した物流ネットワークと比べて、小米の物流配送のコントロール能力は相対的に強くはありません。JDモールは全国7都市に第一級のDCを建設し、その他のDCは100ヶ所弱、数千のラストワンマイルのセンターを各都市に配置しています。
2014年初頭小米のDCは全国で6ヶ所しかありませんでしが、一年が経った現在で既に12ヶ所まで拡大しています。しかし、現時点では河北省や山西省、内モンゴル自治区などについては北京DCが出荷を担当しています。更に小米のエコシステムの中で新製品の投入の増加、製品単体の販売量が増加し続ける中で、軽い資産で運営していた小米であっても倉庫と物流網の拡張を行わざるを得なくなりました。例えば、内モンゴル自治区への配送コストが倉庫建設のコストを上回った現在、内モンゴル自治区に倉庫を建築することを考える必要が出てきたのです。
DCで取り扱う数量の拡大に伴って小米は一級DCを増やし周辺に放射状に二級DCを建設する必要が生じています。一級DCが集荷とソーティングを行うことにより工場からDCまでの輸送コストを下げることができます。二級DCに在庫が無い場合には、一級DCからすぐに製品を送ってもらうことができ、工場から送ってもらうよりも処理速度が上がります。
物流については、小米は前述した順豊や如風達、EMSという主要3物流会社にアウトソースをしています。EMSはその中でも特に辺境地区への配送を担当しています。この3社は小米を特別に優遇する物流会社ですが、テレビや浄化器などの大型商品についてはまだ全国配送をカバーできていません。上海市でも浦東地区の一部のユーザーについては、未だにテレビを買うことができません。テレビの販売量は小米の予測に達していないということもありますが、一方で配送カバー範囲の狭さが直接悪影響を及ぼしているのでないかと危惧する声もあるそうです。
2. 人手による伝統的なソーティング
アマゾンがシアトルにDCを持っており、その特徴がロボットによるソーティングであることを知る人は少なくないでしょう。システムがロボットにソーティングに関する命令を発し、ロボットが自動的にピックアップを行った製品を配送員に送るため、スタッフは全く動くことなく出荷が完了します。
JDモールの”青龍揀選系統(ブルードラゴン・ソーティングシステム)”でもロボットとバーコードを中心としたソーティングマネジメントが導入されており、システムはオーダーの住所などの情報を基に配送パッケージの上に最終配送地点に関する情報を記録し、ソーティング情報をバーコードで読み込んだ後に、しかるべき積み込み場所へ仕分けします。
しかし、小米のDCでは現時点では人手をベースとした伝統的なソーティングを行っています。出荷指示室では数十の出荷が必要なシッピングリストが集められ、ソーティング業務に携わるスタッフが商品のストックヤードの場所、数量の情報を基にピックアップを行っています。ですから、スタッフの手が休まることはありません。
小米が伝統的な方針を採用しているのは、コストをできるだけ低く抑えることと、更にSKUが比較的少ないためオーダーが一部のヒット商品に集中すること、ストックヤードや商品数量が一般的なEC業者と比べて少ないため、ソーティングを行う経路が比較的短いということが理由となっています。一般的にDC内部で最も効率化ができるのはソーティングの部分で、作業時間ベースで60%の効率化が可能であると言われています。言い換えれば、小米が更に出荷プロセスを更に効率化したいのであれば、この部分に改善の余地が残っています。
3. 在庫を持たないリーンな物流と供給不足
大型キャンペーンにより商品に対するニーズが急増していますが、小米は”ジャストインタイム方式”の物流モデルを追求しています。もちろん”JIT"は日本のトヨタ自動車が源流で、その生産モデルは”在庫を持たないリーンなプル型”モデルです。 生産ラインには一切の在庫がありません。カンバンの数値を基に必要な時に必要な分だけサプライヤーがオーダーを行います。トヨタの全てのサプライヤーは30分以内の範囲に位置していることもJITを支える重要な要素となっています。小米のDCは数量予測とシステムが処理する毎日の処理量に基づき、工場からの出荷、集荷、ソーティング、ラストワンマイルへの出荷などの量、ヒット商品の在庫回転率を計算し続けて、物流プロセスの効率の最大化と在庫の最少化を行っています。
在庫を最低限まで圧縮しコストを下げることと小米のマーケティング方式は密接に関連しています。小米がプッシュする”爆烈商品”は往々にして販売後に数ヶ月間供給不足に陥ることが多く、毎週火曜日のセール期間に放出される商品量がすなわち在庫量であり、倉庫に3日間以上滞留することはありません。そのため、供給を充足するためにこの類いの商品については通常一定量の在庫を確保しています。毎週月曜日に、欠品状況を計算し予測を修正、近接するDCと相互に商品の補充を行います。
意図的に品薄状態を作り出していると批判されていることについて小米は、DCは川下のサプライチェーンと、川上の生産状況から受ける影響が巨大であり”リーンプロセス”を採用せざるを得ないと否定し続けています。実際に欠品が生じた際にネットショップ上で”欠品”という灰色の二文字が出ることでユーザーのオーダーに甚大な影響が出ていることについては悩んでいることを公表しています。
4. 物流会社による”特権待遇”による48時間爆速配送
小米は全国20都市で”爆速配送”サービスを行っています。例えば北京では、周辺にある河北省の石家荘へ商品を届ける際に北京DCから消費者までのルートを中継を通さず直結させています。中抜きをすることによりオーダーから48時間以内の配送を実現しています。これは、物流会社からの特権待遇小米が獲得しているためです。北京、上海、深センなどの数都市においては基本的にオーダー後24時間配送となっています。”こめこ祭り”でのユーザーのフィードバックから、順豊、如風達などの物流会社スタッフは23時においても小米のDCで出荷に協力しています。
5. 自社開発の物流管理システム
小米のR&Dチームが開発した物流管理システムの中には、物流スタッフは欠品が出たオーダーについて他のDCから出荷する機能があります。 この機能は手動でも可能ですし、既に自動化がされています。商品が届いたユーザーは、北京の自宅からオーダーしたにも関わらず深センから出荷されていることに驚くことになります。
また、オーダーされた全商品がDC内に無く、複数のDCに散財しているということがあります。その場合、小米はオーダーを分割し、2つのDCに出荷指示を出すことができます。ユーザーは1回のオーダーにも関わらず、2回に分けて配送がされることになります。オーダー分割とサービス品質とはトレードオフの関係です。しかし、オーダー分割をしない場合のコストは数倍となります。