全人代に中国企業家揃い踏み:ポニー・マーとジャック・マーの行動の違いが面白い
柴静の記録映像で波乱?もしくは予定調和としての幕開けをした中国全人代ですが、現在の中国を代表する起業家・企業家の巨人たちも北京に集っているようです。しかし、あの人の姿が見えません。そうアリババのジャック・マー(馬雲)です。どういうことなのでしょうか。他の企業家スーパースターたちの様子と共にBiaNewsの記事を紹介します。
インターネット大老集う全人代、ジャック・マーがいない?
冬が去って春来る。一年に一度の全人代がやってくれば、途方も無い数の提案が我先にとやってくる。特に科学技術、インターネットの領域に関する提案は毎年、業界内ではとてもホットな話題になる。
我々の理解によれば、2015年の全人代に参加するインターネット業界の代表は6人。百度のCEO李彦宏(ロビン・リー)、テンセントのCEO馬化腾(ポニー・マー)、小米(シャオミ)董事長の雷軍(レイジュン)は全国人民代表として参加する他、蘇寧(家電量販)董事長の張近東、科大讯飛董事長の劉慶峰、そして盛大集団(タイ系から出資を受ける商業集団、伊藤忠も絡む)のCEOである陳天橋は政協委員として参加する。
IT企業の代表は5名。この5名の内、Lenovo集団董事長兼CEOの楊元慶、神州数码の董事長の郭為は政協委員としての立場で、浪潮集団董事長の孫丕恕、用友董事長の王文京、中星微電子の董事長の鄭中翰は人民代表としての立場で参加する。
大老たちが一同に集う。BAT(Baidu, Alibaba, Tencent)のビッグ3の内、アリババの董事長であるジャック・マー(馬雲)だけが今回の全人代に縁がない・・・、これはもう既に毎年の全人代の慣例になったと言って良いだろう。ジャック・マーはもとより全人代に関心がないのだ。
「紅頂商人(政府の役人)」にはなりたくないジャック・マーは常に言うことは、「赤い帽子をかぶりたい(役人になりたい)人がいるようですが、私は、政協委員にはならないし、人民代表にもならないし、党代表にもなりません」。
ジャック・マーが政治の干渉を避けていることが分かる。人民に尽くす人民代表になることは、この年代にとって目の眩むような素晴らしいことであり、一族にとっての栄光になるのではないか?なぜ、ジャック・マーは全人代を回避するのだろうか?
ジャック・マーの政治舞台での面影
メディアの報道によると、2006年12月20日、杭州市浜江区人民代表常務委員会オフィスは、杭州市浜江区委員会組織と連名で、一枚の通告を出した。「杭州市第11回人民代表大会一次選考候補者の公示」というものだ。その上には、「経済開発区委員会、区人民代表常務委員会は、馬雲(ジャック・マー)同士を杭州市第11回人民代表大会の一次候補者として推薦する」と書いてある。
この通告には、「公示対象者の基本状況」として:馬雲とは、アリババグループの董事局主席兼主席執行官(CEO)の”あの馬雲(ジャック・マー)”のことだ、と書かれていた。
しかし、最終的にジャック・マーは落選した。落選後、ジャック・マーは杭州市の区一級、市一級もしくは省一級のリストの中に選ばれることはなくなり、結果、人民代表に選ばれることはなくなった。
党幹部は元より企業家を考慮することも少なくなり、地域コミュニティや企業のローエンドの幹部層が考慮されることが増えた。アリババでは技術者がリストアップされるようになった。
浙江省の企業に詳しい業界専門家の観察によると、「ジャック・マーはかなり昔に、親しい友人に向かって全人代には興味がないということを打ち明けていました」。
国務院の元総理である温家宝が主催した座談会で、各業界の名士に政府の仕事に対する意見を求められた際に、専門性が高いと言うことで招待されたジャック・マーは参加を受け入れたことがある程度だ。
会社のバックグラウンドに関して、ニューヨークタイムズ紙は、アリババの投資者と大陸のハイクラスとはかなり深い関係があり、アリババの上場目論見書の中で、約7割の株式保有者が暴露されたものの、それぞれの持ち株比率は重要ではないとして提示されなかった人たちは政治の実力者たちではないかとの疑惑を報じたことがある。
ジャック・マーは「沈万三」を演じるつもりはない
ジャック・マーは、話が「紅頂商人」に及んだ際に次のように述べている。「今日に至る過程でどんどん分かってきたことがあります。人の一生において、お金と権力とを絶対に一緒に触れさせてはならないということです。政治家、官僚になったのであればお金を欲しがってはいけませんし、もしあなたが政治家になりたいと思ったのであれば、その日の内にお金というものを忘れなければなりません。もしあなたが商人になりたいと思ったのであれば、権力についての一切の望みを捨てることです。この2つを一緒に触れさせると爆薬ができあがり、瞬間に爆発します。」
このことは筆者に明朝時代の沈万三を思い起こさせた。1356年前後、沈万三はその鋭いビジネスマンとしての能力を自らが作り貯めてきたもの凄い数の企業に注ぎ込んだ結果、最終的に没落したのは、自らを過信したことが原因とされている。優れた富豪商人は冴え渡った政治力と鋭敏な洞察力のどちらかが欠けていることが多い。この明朝時代の江南富豪商人はその頭の中にどちらも持ちあわせていたのだ。
当然、今と昔とは異なる。封建社会には戻ることはあるまい。筆者がここで書きたいのは、ジャック・マーは、自らが商売において非常に成功する要素を持った頭を持っていると理解しているということだ。ビジネスの世界では何でも繰り出してくる。しかし、政治の世界では非常に厳格に自分を律している。政治とビジネスは全く異なる。お金を稼ぐのであればお金を稼ぎ、権力とは最大のレベルで距離を置く、非常に愚直な商人なのだ。
(以下省略)
出所:BiaNews報道
編集後記:
ということです。この話が美談として後から作られたものなのか、それともジャック・マー自身の素養であるのかについては想像の域を超えません。しかし、彼の逸話ということで説得力が増すことも事実です。「金と権力を一緒にすると爆発する」というのはどこの世界、時代でも普遍的なものであったということですね。
さて、テンセントのポニー・マーは、全人代で何をしているのかと言いますと、非常に面白いトピックを持って北京にやってきていました。
中国テンセントCEOポニー・マー、インターネットによるPM2.5問題解決等4項目の政策提案を提出(小龍茶館)
この記事によると、彼は人民代表としての立場で出席しており、4つの提案を持ち込んでおり、その全てがインターネットに関連したものになっているとのこと。その中には、全人代直前にゲリラ的に配信され24時間で1億再生回数を獲得したとされる、元CCTV記者の柴静がプロデュースした記録映像の最大のテーマになっていた「大気汚染とPM2.5」を解決する議題も含まれているようです。その他、ビッグデータ、IoT(O2O)、人工知能など、正に彼が語っていたテンセントの事業戦略の延長線上にあるテーマが並んでいます。
アリババのジャック・マーと動き方は全くことなりますが、ポニー・マーのようなアプローチができるのが中国の政治の柔軟なところでもあります。民間側が巨大な実力をベースに、国の社会問題を解決するリーダーシップを官側に対してとっていくという。こういったダイナミズムが中国の最大の活力の源であり、面白さであると思います。