タイの新幹線を日本が奪い取る?中国李克強総理のトップ外交を覆す日本の粘りの営業

中国からの情報を中心に発信してる当サイトですが、日本との関係性についてあまり話をしてきませんでした。中国系のニュースサイトをクロールしていて、日本との関係性を際立たせる事案が話題になっています。それは、タイにおける高速鉄道のコンペティションで中国が勝利し契約を勝ち取っていたにも関わらず、タイの軍事政権の暫定首相が「最終的な目標は日本の”新幹線”である」と言い切ってしまったのです。タイを戦場とした、日本と中国の戦い、一体何があったのでしょうか?テンセント財経ニュースサイトの記事を引用します。


日本の新聞報道によると、タイの運輸部から伝え漏れてきた情報として、中国政府が提供している借款の利息が高過ぎるため、タイ政府として中国からの借款を諦め、日本政府開発援助(ODA)の低利息借款に借り換えることを検討しているとのことだ。

2014年12月、中国とタイの両政府は共同で中泰高速鉄道を建設する協議書を成功裏に締結。計画では2015年に建設を開始し、タイ北部の重要港湾と南部の工業地域を結ぶことになった。中国がタイの高速鉄道プロジェクトを推進し続ける中で日本の姿は見えなくなり既に諦めていたと思われていたが、報道によると、日本政府は最近になってタイ政府と親密に接触し、日本の高速鉄道技術をタイに提供すると同時に、ODAによる低利率の借款を建設費用として提供することを伝えていた。日本政府が提供する借款の利息標準は1%で、中国が提供する借款の利息標準を下回る

タイ高速鉄道の背後にある中日間の競争

タイの高速鉄道発展計画は2009年11月に立ち上がり、当時のアピシット政権の下で交通運輸省とタイ国営鉄路が共同で策定した。第一版のタイ国高速鉄道建設計画では、2本の主要幹線が計画された。1本は首都バンコクから辺境都市のNong Khaiまでの北ルート。もう1本はバンコクからマレーシア北部にある港湾都市のPadang Besarを結ぶ南ルートだ。

しかし、インラック政権となり、2011年にタイの高速鉄道計画を根本から覆す計画が発表された。民衆と公共福祉への関心を最大のポイントとして発表されたインラック政権の計画では、国をまたがる高速鉄道計画よりも国内の高速鉄道を優先するということで調整された。

2012年4月、タイ交通運輸省は高速鉄道建設に関する専門オフィスを設置、同時に中国、日本、韓国政府の交通関連部門および高速鉄道関連企業との接触を開始。タイは政府は3カ国に対して、現状の評価と提案を求めた。

バンコク市内のマーケットを貫く鉄道路線

バンコク市内のマーケットを貫く鉄道路線

2012年4, 5月、日本国土交通省の専門グループがタイにおいてリサーチを行った。日本グループは乗客数と消費力水準をベースに彼らが考える最良の法案を提出。日本グループが企画した路線は3本で、最優先で検討するべきはバンコクと、東部にあるRayongを結ぶ路線。次にタイ内閣が最も早く確定したバンコクからNakhon Ratchasimaまでの路線、最後はSuvarnabhumi空港と南部のHua Hinを結ぶ路線とした。2012年5月、日本はタイ運輸省に対し初期の企画案を提出した。

中国が企画を提出したのは2012年の10月で、日本に遅れること5ヶ月。中国が提出した案に含まれる路線は2本。1本は、タイの前政権時代に企画された首都バンコクから辺境都市のNong Khaiまでの北ルート。もう1本はバンコクからChangwat Chiang Maiを結ぶルートだ。

中国、日本とは異なり、韓国はコンペ参加の意向を強く出しているにも関わらず他の2カ国に匹敵する競争力を持った提案を準備することはできなかった。韓国はコンペが開始された時点で既にタイ政府によって排除された。タイの高速鉄道プロジェクトにおける実質的なレースは中国と日本の2カ国で行われることになった。

この競争の中で、中国側はタイ政府が抱える最大の問題は資金調達であることを発見、ここに創意工夫を凝らし、貿易取引スキームを活用することで、最終的には米と鉄道を交換する案で協議することにこぎつけた。

インラック首相と李克強総理

インラック首相と李克強総理

2013年10月に李克強総理(当時)がタイを訪問、タイのインラック首相(当時)と覚書を締結、Nong KhaiからPhachiに至る高速鉄道の建設プロジェクトへの参加と引き換えに、タイの農産品を現物としてプロジェクトの部分的費用に充当したため、メディアはこの取引を「米と高速鉄道の交換」と呼ぶようになった。

ところがこの計画はタイのクーデーターによって二転三転、上述したパートナーシップに影を落とすことになる。2014年3月、タイの最高法院が、国会で既に可決されたインフラ建設プロジェクトが憲法違反であるという判決を下した。これはプロジェクトの核心的部分であるタイ高速鉄道建設プロジェクトが暫定的に停止されることを意味する。さらに、2014年5月にタイの最高法院はインラック首相の職務の解除する判決を言い渡し、「米と鉄道の交換」計画は事実上の無期限延期状態に入った

この後、李克強総理は何度も外交局面でプロジェクトの再起動を促した。2014年10月にミラノで行われた第10回アジア欧州首脳会議から、2014年11月に北京で行われる予定のAPECまでに、李克強はタイの暫定首相であるプラユットと外交レベルで接触、中泰高速鉄道と農業の合作プロジェクトを積極的にプッシュをし、双方が再度この高速鉄道プロジェクトに対する共通認識を回復することを強く望んだ。

2014年12月19日、李克強とタイの暫定首相プラユットは「中泰高速鉄道の協業に対する理解についての覚書」と「中泰農産品貿易の協業に対する理解についての覚書」に署名、過去一年の努力を経て、中国とタイの間での「米と鉄道の交換」パートナーシップはようやく確定に漕ぎ着けた

写真は正確には中国の高速鉄道ではなく動力汽車、美人サービスパーソンとともに

写真は正確には中国の高速鉄道ではなく動力汽車、美人サービスパーソンとともに

報道によると、中国とタイが共同で建設する路線は、タイ北部の重要な港湾と南部の工業地区とを結ぶ総延長800kmを誇る、タイ初の「標準軌(純粋な高速鉄道規格よりは格下の軌道)」鉄道となる。2015年から建設が始まり、中国の技術と設備、標準を採用する計画だ。

この市場を奪うために出し惜しみをしない日本

世界で最先端の技術と優れたオペレーション、50年間人身事故を出していない世界で最も安全であると自ら標榜する「新幹線」を保有する日本は、本来タイの高速鉄道については必ず受注できると考えていた。しかし、最終的にはタイと中国が先に合作に関する協議書を締結することとなった。この「意外」な結果は日本のメディアをして、コンペで負けた後に「偽者(山塞版)が本物を打ち負かした」と報道するに至った

しかし、タイの高速鉄道市場は魅力的で「巨大なケーキ」、日本は中国と争い続けたこのプロジェクトの中で実は一度も諦めてはいなかったのだ。日本はタイの交通部や財政部とのコネクションを構築し、タイにおいて高速鉄道技術展などの活動を開催し、当地での印象を高めていった。

2014年、安倍首相はプラユット首相と会談した際に、国家インフラ建設計画と鉄道システムの状況について質問をした。安倍首相は日本企業がプラユット首相が提出した鉄道プロジェクトに大変関心を持っていることを伝えた。2015年2月10日、プラユット暫定首相は日本の東海道新幹線「のぞみ号」の最新車両N700に乗り東京・大阪間を往復した。乗車体験の演出だ。日本経済新聞中文版が報道したところによると、プラユット暫定首相は、2015年2月6日にバンコクで日本経済新聞等のメディアと会見、現在日本と長距離鉄道の建設計画について議論をしていると述べ、「我々の最終目標は日本の新幹線を導入することだ」とまで言い切った(日経新聞ニュースソース)。

日本のニュースサイトによると、中国政府は雲南省からタイまでの高速鉄道を計画しており、中泰高速鉄道の共同運営を実現させると報道した。中国政府がタイ政府に巨額の借款を提供することが、この計画の実現根拠となっている、と。しかし、タイ政府は、中国政府が提供する借款の利息が高く、かつ返済の条件も過酷なものだとしていた。

タイの運輸部長曰く、中国政府が提供する借款の利息は、高速鉄道のインフラ建設に関して2%、更に鉄道運行管理システムに関して4%と、非常に高く、タイ政府としては受け入れることは難しい、とのこと。

日本政府は最近タイ政府と親密に接触を重ねており、日本の高速鉄道技術をタイに提供しつつ、同時に日本政府がODA資金を使用して、タイに低利息の建設資金を提供することを希望している。情報筋によると、日本政府が提供する利息は1%と、中国が提供する利息よりも遥かに低い

「観察者」ネットでコラムを書いている劉元海の分析によると、「根本的に、タイのような経済力に限界のある国は、単独で高速鉄道を建設するにはエンジニアリング力が足りません。本気で実現させようとするのであれば、我が国や日本が建設資金の借款をすることは必須となります。問題は、日本人がタイにおける鉄道網のみに着目し、この鉄道がどれくらいの利益を生み出すかのみを考え、タイに早期の借金返済を保証させることに努力したのに対して、我が国は将来的にマレー半島を貫通しマラッカ海峡まで繋がる国際交通輸送ネットワークを構築することを考えていたことにあります。タイの政治環境はクーデターにより一時的に動揺しています。しかし、一旦安定を取り戻せば、中国は依然としてタイから東南アジアに至る鉄道建設の競争環境においていかなるライバルにも勝つことができるでしょう。」

gaotie2

近年来、タイ、シンガポール、マレーシア、インドなど、多くの国で高速鉄道の建設計画が出されており、その総延長は1万kmを超える。その上、これらの国では高速鉄道建設に関する技術が欠乏している。こういった「巨大なケーキ」は、高速鉄道の設計、建造、運営経験を保有する国同士の奪い合いになっている。

グローバルの視点で見ると、ヨーロッパ勢の高速鉄道は建設コストが高いため、東南アジア市場のライバル関係は、事実上中国と日本に絞られている。多くの専門家は、東南アジアが決戦の地であることに疑いの余地はなく、日本は中国にとって最強のライバルであり、中国の高速鉄道はコスト面で優位性を誇るものの、海外の巨大案件においては引き続き日本については警戒しなければならないとしている。


編集後記

このニュースを見て一番強烈だなと思ったのは、タイの政情不安です。この記事の中だけでも、政権がめまぐるしく変わっていて、その中で、日本と中国の鉄道関係者が完全に巻き込まれる形となっています。中国は高速鉄道を新興国に対してシステムごと輸出していくことを国の目標としており、国務院総理である李克強が営業のトップをやっているという構図です。

いつもであれば、日本は民間企業任せで弱腰外交、結果後手を踏んで負けるというパターンでしたが、今回は安倍総理を含めて総力戦を仕掛けている様子が分かります。2014年末に李克強総理によるトップ営業が奏功し、契約に漕ぎ着けたはずが、今年の2月に入りタイ軍事政権の暫定首相を日本に呼び、新幹線に載せて「体験を演出」してしまうという超攻撃的な営業により、中国の契約がまるでなかったような言動を行わせるに至っています。今まであまり無かったパターンではないかと個人的には思います。

また、中国側の見立てとして、

  • 日本側は、ODA資金による低利息の円借款を武器に、鉄道から得られる短期的利益だけにフォーカスを充てた結果、分かりやすさがタイ政府に訴求した。
  • 中国側は、長期的な中国とマラッカ海峡を繋ぐ巨大な物流ルートにおける交易から得られる利益にフォーカスをして、短期的にはしっかりと利息で儲ける。

という分析がされています。日本側が短期的戦略で金銭的な武器を持っていく極めてプラクティカルな方法で、中国はむしろ夢のようなビッグストーリーを持ちかけているという形です。個人的にはこの構図も一般的には逆で語られることが多く、それが故に日本は巨大コンペを落としているという印象があったのですが、戦略的な意図があったのでしょうか?

いずれにせよ、こういった戦いは今後新興国では激増するはずです。日本と中国という対決軸もありますし、また別の解決策もあると思います。積極的に第三の波を作っていきたいですね。

Follow me!