中国百度がNokiaの地図サービス部門を買収か? 争奪戦における多様な顔ぶれ
フィンランドの通信大手Nokiaが地図サービス”Here"を売りに出しました。業界関係者によると、Hereを巡って様々な企業が買収に名乗りを上げており、その中には、欧米の自動車、インターネット企業だけでなく、中国のテンセントやアリババも含まれているという話が出ています。
売却の背景と多様な買収候補
Nokiaの地図サービス(Here)部門は6,000人を抱え、毎年のオペレーションコストは10億ドル。利益は出ていますが、売上はNokia全体の1/10ということで売却されることになったようです。そういう意味では下記の記事で日経新聞が”Here"をテコにビッグデータで蘇ると昨年夏に書いている記事は全くの読み違えでしかありません。
北欧の巨人はよみがえる ノキアが狙う新領土(日本経済新聞2014年8月14日)
買い手として名乗り出ているのはUber, 百度、自動車メーカー、中国の地図サービス企業の四維図新、テンセント、更にはプライベートエクイティ(PE)ファンド(Hellman & Friedman,Silver Lake Management,Thoma Bravo等)などです。
入札は6月18日締め切り。直近での企業価値は20億ドルですが、売却価格は30〜40億ドルとかなりプレミアムが乗ったものとなる可能性が高いとの味方が示されています。Nokiaの地図と自動車ナビ、更には位置情報に関する技術は非常に豊富で、300種類の位置情報と過去の運用データの蓄積、またそれに付随する権利関係が含まれているからです。
自動車メーカー
欧州系のアウディ、BMW, ダイムラーが組成した財団が買収に名乗り出ている可能性が高いと言われています。既に多くの自動車メーカがHereの地図を採用しており、専門家によれば80%を超えています(注釈:恐らく欧州メーカーの中のシェア)。彼らは、自動車と関係のない企業によって買収された結果として、現在の状況が変化することを恐れており、財団としてHereを買収後、全世界の自動車メーカーに開放する意向を示しています。
Hereが売りに出される前に会計事務所アーンスト・アンド・ヤングを通してNokiaに接触したが30億ドルと言う売却価格が折り合わず一度破談になっています。また、仮に今回の買収に失敗した場合には、同じく位置情報サービスの”TomTom”に代替する意向も示しています。
Uberと百度
中国インターネット検索大手の百度とUberが共同でHereの買収に名乗りを上げている可能性が高いと見られています(百度は2014年にUberに出資済)。更にこの連合にはPEファンドのApax Partnersも含まれているとされています。Uberは現在15億ドルの新たな資金調達を進めており、今回の買収に活用する計画とのこと。
世界の交通ネットワークを掌握したいUberは、Hereに接触する以前の2015年初頭に位置情報サービス企業である”deCarta”を買収しています。また、百度とUber間の関係性には不確定性が残りますが、百度としては既に中国でダイムラーとパートナーシップを結んでいます。
四維図新とテンセント
四維図新はNokia Hereサービスの買収に名前を公開して名乗りを上げている現時点で唯一の会社です。彼らはテンセントとPEファンドであるEQT Partnersと組んでいる可能性が高いと見られています(テンセントは四維図新に出資しているため)。
四維図新は中国の大型位置情報サービス企業で、早々に今回の買収に対して40億ドルを準備していることを自社のWebで表明したが、その後すぐにそのページを削除しています。テンセントも”滴滴快的”など応用できるO2Oサービスを多く抱えておりシナジーは高いと見られています。
その他
2014年にアリババはHereへの大規模な出資を行うべくNokiaと交渉を行った経緯があります。Facebookは、2015年5月にひっそりとモバイルアプリ中でHereの地図を使用開始しています。AppleはTomTomとOpenStreetMapsとのパートナーシップ契約を最近延長していることと6,000人という大企業の買収はらしくないということもあり、参加の可能性は低いでしょう。
編集後記
いずれにせよ、世界の大型買収には中国のインタネット企業の顔が必ず見えるようになりました。今回も百度、テンセントが参加している可能性は非常に高く、アリババも可能性としては否定できないということで、BAT揃い踏みということになりそうです。
技術を売り出す欧州の小国と、資本力と勢いがある中国との関係。日本と中国の関係も恐らくこうなると思いますし、既にゲームなどでは中国企業に売却する話も聞こえてきます。日本の立ち位置をどうするか、日本で事業を興す場合に何を見るべきなのか、考えさせられる内容でした。