次は”アイノリ”サービス | 過激化する中国O2Oサービスのデスマーチは続く
北京に出張、旅行で行ったことがある方なら皆分かると思いますし、いわんや中国の方をやという感じですが、とにかく交通渋滞が酷いのです。中国人で北京人ですら北京市のことを指して交通渋滞が名物であると皮肉ることも少なくありません。タクシーでの移動を選択した場合、目的地に正確な時間に到着することは至難の業です。現在は自動車は新規に購入する際に取得すべきナンバープレートが抽選制になっているため、以前ほどの自動車保有台数の伸びにはなっていないはずですが、この政策が出るのが遅すぎたため、交通インフラに対する自動車の量が多すぎることが原因となっています。
特に酷いのが朝晩のホワイトカラーの通勤時間帯です。地下鉄の沿線に自宅やオフィスがある人は東京と並ぶかそれ以上の猛烈なすし詰め状態での出勤で何とか時間通りに出社することができますが、そうではない人々はタクシーを選択することがメインでしたが、別の手段も存在します。それが”拼车(相乗り)”サービスです。最近ではこの”拼车”サービスをモバイルで提供するプレーヤーが増加し、O2Oの新しい領域として注目を集めています。そして、特に北京においてその利用が進んでいるようで、今回はその現状について触れてみます。
この”拼车”サービス、相乗り用の車を提供するのも、それを利用するのも一般市民です。以前当Blogでも紹介をさせて頂いた滴滴打車(テンセントグループ)や快滴打車(アリババグループ)はタクシードライバーと一般の消費者を結びつける”専車”サービスであるところが”拼车(相乗り)”サービスとは異なる部分です。”専車”サービスはタクシーの非稼働時間を、”拼车”サービスは一般乗用車の非稼働時間をモバイルプラットフォームを利用することで効率的に媒介するという意味では種類は異なりますがO2Oのサービスに含まれます。
さてこの”拼车”サービス。ユーザーはモバイルアプリをたたき、時間、目的地、その他相乗り車両に求める要件などを選択し、それを見た一般ドライバーは自分が求める条件に応じて適切なユーザーを選択、マッチングが成立した後に実際に相乗り行為を行い目的地に向かうという段取りとなります。プラットフォーム側は、ドライバーに対する付加価値として経路案内やその他の付加情報を提供し、ユーザーに対してはアプリを提供する形です。既に北京市では20〜30万人程度のドライバーがいずれかの”拼車”アプリを活用しているそうです。
プレーヤーですが、早期に参入した草分け的なベンチャーが”51用車”と”嘀嗒拼車”、”微微拼車”などです。そして市場の成長に加速度がつき始めた現在では”58同城(地域クラシファイド系コミュニティの最大手)”やあの”滴滴打車”などが既に市場に参入しています。また、当初は1人のドライバー(車両)に対して複数人のユーザーが相乗りする1対多の形が主流となっていましたが、現在では80%以上が1対1のサービスを利用しているそうです。1対多の形式の時代にはユーザー1人あたり5〜15元(100〜300円)程度の利用料だったそうです。
さて皆さん、良く考えなくてもこの”拼車”サービス市場、参入障壁が低いことに気づくと思います。ベンチャー2, 3社から始まったこの市場もO2Oの旗手が参入してきた結果を受けて、いくつかのポイントで苛烈な競争が始まりつつあり、その中でも特に大きいのが”焼銭(金を燃やす、すなわちプラットフォーム側がドライバーやユーザーに多額のクーポンを発行すること)”と、ITテクノロジーによる差別化の2点です。
焼銭問題
”専車(O2Oタクシー配車サービス)”の世界では、テンセントグループの滴滴打車と、アリババグループの快的打車の2社が壮絶な”焼銭”戦争を繰り広げ、ドライバーやユーザーへの現金供与を行い続けた結果、2社で98%以上のシェアがある(上の図参照、小米の2014年アップストアダウンロード数によるシェア)にも関わらず合併するに至りました。合併することにより”焼銭”について休戦協定を結んだという形です。これと同じ問題が”拼車”市場にも現れ始めています。その発端は結局のところこの市場に新規参入した滴滴打車なのです。滴滴”拼車”サービスでは、ドライバーが当サービスに登録することで50元、更に最初に顧客がついた際に50元の現金を提供、更に他のドライバーを紹介して登録させる言わばアフィリエイトを行うことで20元を支給しています。市場の草分けであるスタートアップ系プレーヤーにとってはたまったものではなく、”微微拼車”などは既にUBERや、正に滴滴などO2Oのビッグプレーヤーとの交渉を進めているそうです。
テクノロジーによる差別化
現在どの”拼車”プラットフォームでもドライバーに対して洗車マップやクーポンなどを提供するいわゆる伝統的な利便の提供を行っていますが、今後の競争のポイントはドライバーに対してスムーズな送客ができるかというところに移ってきています。どのプレーヤーも百度地図を利用していますが、裏で走る送客計算ロジックはそれぞれ独自のものを使っています。ここが今後の差別化ポイントです。例えば、”嘀嗒拼車”では過去2時間に遡ってドライバーが走っている経路上で”車両待機”をしていたユーザーをリストアップするロジックを持っています。ドライバーにとって、効率的にユーザーを見つけることができますし、それを見ることで翌日からの通勤経路を効率化することができるという訳です。
中国のO2Oは行き着くところまで行った感
前回紹介した”出前O2O”の事例もそうでしたが、中国のO2Oプラットフォームによる顧客獲得競争は相当に激化しており、業界内でも本当にお金を稼ぐことができるのだろうかという声が上がっています。検索エンジンから入った百度(B)、ECから入ったアリババ(A)、コミュニケーションから入ったテンセント(T)、端末から入った小米(X)に代表されるいわゆるBAT/Xがインフラ(PaaS, BaaS層)を押さえている中で、サービス系(SaaS)で勝ち残るのはこのお金をガンガン燃やしていきつつ、技術力をかける必要がある領域では相当に難しいでしょう。彼らとしてはできるだけ速くIPOにこぎつけるか、O2O大手に売り抜くかというところがゴールになると思います。
UXを極めることが当たり前となった中国
もう一つ、中国では”用戸体験”という言葉が当たり前のようにどこでも出てきます。これはユーザーエクスペリエンス、要するにUXのことです。O2O系のサービスプレーヤーなのでもちろん意識はしていると思いますが、日本のメディアや企業トップからこの言葉を聞くことはあまり多くありません。サービスやおもてなしは日本という考え方が当たり前となっている日本ですが、実は中国企業は顧客体験をKPIとして血の滲むような努力を重ねてきています。国全体でのグロースハックを行っている中国に謙虚に学ぶべきところは多いのではないかと思います。