黄河の流れる甘粛省、蘭州の伝統芸能である”太平鼓”の動画が視聴者を震わせ、河南省では中国一の虎の絵の村として知られる王公庄村では300人以上がショートムービーを通じて絵を販売し、山東省の淄博では「芸歴20年」の農民が楽器を奏で歌を歌い収入を得ています。

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ベースを支える中国農民インターネット人口の厚み

インターネットテクノロジーの発展に伴い、情報に関する環境は大きく変わりました。社会の資源は少数精鋭が支配する大衆メディアから、普通の人々に再配分されようとしています。

2019年8月に発表された”中国インターネット発展状況統計レポート”によると、中国のインターネット人口は8.5億人で普及率では61.2%, 農村に限っても2.3億人とすでに日本の人口すら超えています。

中国の膨大な農民インターネットユーザーたちは、動画コンテンツの主要な視聴者でもあり、生産者と変わりつつあります。抖音(中国本家Tiktok)や快手などのライブ配信アプリを通じて、彼らは農村の生活、仕事風景をコンテンツに変えています。食事をしたり、収穫したり、漁をしたり、伝統文化の行事を遂行したり、個人の趣味を表現したり、様々なコンテンツが大量の視聴者に向けて開放されつつあります。

少数民族である”彝族”の彼は悬崖という村で生まれ育ちました。彼は、悬崖村を多くの人に知ってもらうために、”天に昇るはしご”を動画で紹介しました。

近年、多くのメディアでは農村文化の衰退について論じています。都市化と工業化に伴い、農村の伝統文化と秩序、価値観などの基礎的な部分が解体されているというものです。

伝統的な農村社会において、情報の伝達手段は限られていました。農村文化はある特定の農村伝統文化の範囲内でのみ伝播するしかありませんでした。しかし、インターネット社会となった現代において、その籠は取り払われようとしています。

農村伝統文化の源流は非常に古く独自の発展を遂げてきたことに加え、農民たちが言葉を自由に操ることができないことも少なくないため、伝統的なメディアでそれを伝えようとしても、受け手である都市の人々にとっては非常に難解なものとなるということも生じていました。一方で、インターネットメディアでは、表現そのものを広く伝えることができるのです。言葉を発することが無かったとしてもその所作や雰囲気から、文化を伝えることができるようになりました。

上記は、山東省の農民である”本亮大叔”。田畑の真ん中で歌を歌い、網紅(インフルエンサー)となりました。

農民が個人的な表現を行い、インターネットメディアを通じて広く届けることにより、都市の人間たちもその生活、そしてその物語の中に入ることができるのです。

広西チワン族自治区の”巧婦9妹”は、魚を釣り、果物を摘み、料理をするところをライブ配信した結果、県の共産党委員会書紀が正式に認めた農村インフルエンサーとなり、彼女の暮らす村で収穫された果物はネットで飛ぶように売れました。そして、CCTVの名物番組”回家喫飯(家に帰ってご飯を食べよう)」から取材を受けるに至ったのです。

都市化の波に翻弄される中国は、一方で数千年の歴史をもつ農村伝統文化の厚みをも兼ね備えています。彼・彼女たちの暮らしの深い部分に、生きる智慧が隠されているのです。農村からコンテンツが生まれ、都市に届くことにより、その物語は共有され、私達は文化に触れることができるのです。

日本でも”消滅可能性都市”が定義され、地方の農村の大半はこのまま行くと消滅することになります。都市に住まう人々にとって、農村の消滅が何を意味するのか考える上で、中国のインターネットメディアの活用による”新農村”を超えた”文化共有体験”は非常に示唆に富んでいると言えましょう。