アリババと中国政府の全面戦争勃発から、中国式の戦い方の構図・形式を見る

昨今、中国の巷を賑わせているのは、「淘宝(タオバオ) 対 中国工商総局の大戦争」です。そもそも何が起こっているのか、2015年1月29日付の京華時報から見ていきましょう。中身は要約していきます。


国家工商総局は直近で2014年下半期のECで取り扱われる商品の監査結果を発表。それが今では淘宝網と工商総局との「大戦」の様相を呈しています。

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この監査は、淘宝網天猫(T-Mall:同じくAlibabaのECサイト)1号店、中関村電子商城、聚美優品などのサイトに対して、正規品比率を測定したものです。結果は、淘宝網が最低で37.3%でした。1月27日淘宝網の公式サイトで「淘宝運営小二(淘宝網の一オペレーター)」という名義のメッセージを取り上げました。それは、工商総局のネットワーク監督司(所)の司(所)長でる劉紅亮が故意で悪質な監査をしたというものでした。工商総局のスポークスマンは直後に、「EC商品の監査は市場リスクを評価するものであり、違法経営に対して警告を発するための重要な作業である」と反論しました。

翌日2015年1月28日午前、国家工商総局は、2014年7月にアリババグループ対して行われた行政指導に対して、その後の状況を報告する「白皮書(ホワイトペーパー)」を発表、その中で、アリババのECプラットフォームは、アカウント作成時、販売時など5つの点について管理が不十分であるとの指摘しました。同日、淘宝網は、「劉紅亮(所長)の監査プロセスは秩序だったものではなく、感情的なものであった」とする声明を発表し、工商総局に対する訴訟を起こすことを正式決定しました。


さて、これを受けてジャック・マーがコメントを発表しています。人民網から抜粋します。


2015年1月28日、淘宝網は、300人で組織される「コピー商売撲滅”大本営”」を設置したことを発表、同時に、アリババ集団の董事局主席であるジャック・マーは声明を発表しました。

「コピー商売は全てのビジネスモデルの進化過程における必然的な痛みであり、淘宝網が創りだしたものではありません。しかし、淘宝網としても、この痛みと責任の一端を背負っていく必要があります。コピー商売と知的財産権の問題は淘宝網にとっても死活問題です。しかし、社会問題を一企業が解決することはできません。私達は一切の資源とパワーを使い、社会の共通インフラとして、個人に委ねず、相互に責任を負う形で解決する必要があります」。

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ジャック・マーは、また、「コピー商品は社会経済発展における病理であり、人の弱さが持たらすものです。人類社会に商業という行為が存在する限り、数百年後にも存在すると思います。欧米の発展の歴史が証明するように、ルーズな経済環境において、特に1人当たりGDPが5,000ドル前後でコピー商売が横行しやすくなります。現在の中国は、経済モデルが完全に合理的ではなく、社会信用システムの整備も完了しておらず、されに経済発展にも不均衡があります。コピー商売と知的財産権の問題はこの数十年で、最も損失が激しいタイミングです。同時に、現実社会におけるコピー商売の規制は、数十年の発展を遂げ、既に商業社会の各方面に浸透しています。ネット社会は現実社会の鏡のようなものです」。


ジャック・マーとしては、組織としてコピー商売を認めているはずががなく、社会的必然である、ということを証明しようとしていますね。さて、もう少しミクロに、アリババと工商総局のやり取りを見てみましょう。銭江晩報からです。前述した淘宝網の公式アカウントがシェアした「”淘宝運営小二”は誰だ?」という記事です。


27日の午後、「淘宝運営小二(淘宝網の一オペレーター)」という個人名義で、淘宝網の公式ページで公開されたメッセージは、国家工商総局の劉紅亮所長の名前を引き合いに出し、その監査工程の悪質さを指摘し、ネット上での大きな話題になりました。

当日の18時頃、国家工商総局は新聞記者会見を開き、その場で副所長が、「インターネット市場の管理監督は工商総局の法的職務である。工商機関は法律に基づいてインターネット市場に対する管理監督を強化し、違法経営を厳重に取り締まることで、インターネット市場の秩序と消費者の権益を守る」と反論しました。

その後、前述した個人名義での「炎上」メッセージは淘宝網によって公式に削除されました。

28日、波風も治まってきたと皆が思った頃、双方が再び行動に出ます。

先に打って出たのは国家工商総局で、前述した「ホワイトペーパー」を引き合いに出し「5つの重大問題」について指摘。直後の14:50に淘宝網の公式サイトから、淘宝網は被害者であり、工商総局の指摘は淘宝網やその他EC業者に対するマイナスの影響をもたらしたとして、国家工商総局を告訴しました(前述記事参照)。更にその2時間後、淘宝網は、300人の「大本営」を設置することなどを発表しました。

(以下、中略)

「淘宝運営小二」とは誰なのか?

この個人アカウントの発言に単を発したミステリアスな事件に対し、ネット上の人々は「”戦争”を見て楽しむ」以外に、「その背後にあるもの」に関心を寄せる人が少なくありませんでした。淘宝網は、なぜこの個人名義のメッセージを公式サイトで発表したのでしょうか、なぜ工商総局が回答をした後で消去したのでしょうか?

淘宝網の内部の人間は次のように述べました。「”小二”個人の行動により大衆の更に多くの誤解を生み出すことを避けたかった」。大事なのは、28日に発表された公式声明である、と。

「しかし、公式サイトに掲載したということは、公式発表ということになるのでは?」と業界内の人間が認めるように、淘宝網の今回の行動は、以前にジャック・マーと「京東(同じくEC大手)」との間で行った論争事件と類似しているようにも見えます。その時は、「個人対個人で、非公式の立場で、隠すこと無く互いの立場を示し合う」というものでした。専門家によると今回の件は異なると言います。「正面攻撃を行った上で、回答を待つ」というもので、その意味からすると、工商総局が27日に記者会見で声明を出した時点でアリババ側の目的は達成されたことになります。

「小二」のツイート内容は、当然ながらアリババの「公関(コミュニケーション)」部門によって認可されたものです。銭江晩報の記者が聞いたところによると、「小二」の本名は「胡冰」、ニックネームは「潇峰」と言い、アリババのセキュリティ部 業務セキュリティ情報センターの上級セキュリティ専門家で、weiboの認証データ上では「杭州市余杭区インターネット文化協会常務理事」であるということが分かりました。

彼のweibo上のアカウント


さて、再び京華時報に戻りましょう。ここでは、まとめとして、典型的な中国的戦い方と、お互いの着地点を探す姿が描かれています。現時点では訴訟にまで発展したこの件ですが、水面下では落とし所を探る駆け引きと、人身御供となる人間の選抜、そしてその処遇が考えられているかもしれません。


この「大戦」、一見複雑に見えますが、実は極めて分かりやすい構造です。工商総局側としては、監査活動が正常なものであったと考えており、アリババ側には対応する余地を残しています。淘宝網側としては、工商総局との組織としての対立局面を避けるために、劉紅亮所長個人をやり玉に上げている形です。

これは、監査側と被監査側との正しい関係ではありません。本来であればアリババ自身が「ホワイトペーパー」に書かれているような問題を消費者に告知し、お互いが自らの主張をぶつける今の状態を避けるべきです。今の状態は企業権益を守るのみで、消費者が置き去りにされています。

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しかし、一方で、淘宝網と工商総局の間には共通の目標がないとは言えないのです。アリババグループの意思決定者としてコピー商品問題は、最も外に出したくない問題でした。2014年になって初めてアリババは、コピー商品を撲滅している証拠データを公開しました。企業自らの監査と行政による監査が上手く融合することで、コピー商売を撲滅することができますから、持続的なやり方を模索することが肝要でしょう。

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