中国タオバオでの個人輸出に対する日本政府の取り締まりの厳格化と、法人化によるチャンスの拡大

2015年1月19日に、京都外国語大学の中国人職員の韓蓮丹が、出入国管理法違反の疑いで、京都府警サイバー犯罪対策室により逮捕された事件がありました。在留許可の資格外活動とのことで、逮捕の根拠は2014年4〜7月の期間ですが、実際には2011年10月からの3年間で1,000万円の利益というから驚異的な利益率です。

京都外大の中国人職員を逮捕=化粧品送り、利益得た疑い-京都府警(時事通信)

韓容疑者は2014年4月から契約職員という立場で京都外国語大学に勤めていたとのことです。さて、このニュースが出た直後に中国版のtwitterであるwechat(微信:テンセント社)に内容をシェアしたところ、繋がっている中国人の友人たちから、もの凄い勢いで「警告」としてシェアされて続けた上、何人かの友人からは、「根拠法が何であるのか」ということを詳細に聞かれたことが印象に残っています。

さて、中国語のサイトでどのように紹介されているのか、いくつかピックアップしてみます。まずは、個人のBlogから:


 出入国管理局は海外配送記録を確認、「日本代理購買」の粛清が始まった(個人のBlogより)

この事件が発生した後に、我々は新聞の中で一つの重要な単語を見つけた。それは「資格外活動許可証」だ。日本代理購買を行っている内の大半は留学生。日本にいる留学生の資格は当然「留学」となっている。日本政府は、留学生が日本に来ている唯一の理由と目的を学習することとしてビザを発給しているためである。同時に、小売店やレストランなどでアルバイトすることもひとつの学習であるという考え方から、「資格外活動許可」というものが用意されており、「資格内(学習)」以外の活動を毎日決められた範囲で行えうことができる。しかし、ここに大きな誤解がある。日本政府が留学生に与える「資格外活動許可」の目的はお金を稼ぐことにはなく、アルバイトの過程を通じて学習をするということで、それが日本語を学ぶでもよし、日本の社会を学ぶことでもよし、ともかく「金を稼ぐ」ことが目的にあってはならない。

留学生は学校を卒業し、日本で就職をした後で、卒業履歴と仕事の性質を判断された結果として、「留学」ビザだったものが、下記の要件から3年の「就学」ビザとして発行される。

・技術ビザ:理科、ITなど
・技能ビザ:コック、建築、宝石加工など
・人文・国際業務:翻訳、市場調査など

留学生の行動が一度ビザの資格で許された活動範囲を超えた場合、違法状態となりリスクが高まる。この状況の留学生の違法性判断の最終的な基準は「利益を上げているかどうか」、要するに「儲けているかどうか」となる。仮に儲けている場合は、遺憾なことではあるが、日本の法律に違反しているということになる。

代理購買に関する事件が頻繁に発生する中で、日本の入国管理局は敏感になっている。そこで、東京入国管理局のコンサルティング窓口に確認をとった。結果、入管は既に代理購買問題については各方面から捜査を開始しており、日本郵便や、銀行などの協力を取り付け、郵便物の送り主の姓名や住所だけでなく頻度など、更には銀行の入出金記録の情報についても調査に入っているとのこと。

海外へ頻繁に大量の荷物を発送している個人、更に大量の不明瞭な入金が確認される銀行口座を保有する個人については、今後捜査に入られるリスクが高まっている。

海淘の荷物


以上、京都外大の事件を受けて、中国人留学生に対する出入国管理局と当局の捜査リスクが高まっていること、更には、入管への問い合わせ結果として、郵便物の出荷履歴や、銀行口座の内容についても捜査対象となることが示されています。

このような状況は、wechatなどのSNSを巧みに操る中国人留学生の間でも瞬時に情報交換されていると思われますが、次は中国人の日本代理購買に関する意識の変化について、3人の対談形式で紹介します。


 海外にて代理購買を行う際の法律についての前提(広州日報)

A:現在wechatのウォールにて、海外の友人が代理購買をすることはとても一般的になった。

B:海外代理購買は確実に市場がある。日本だけでなく、米国や韓国、オーストラリア、更にはヨーロッパーの多くの国において、ますます多くの人が代理購買を開始している。自分のwechtウォール上にはいつも個人で代理購買をやっている人の広告で溢れている。

C:確実に言えるのは、ここ数年、代理購買サービスは海外に住む中国人にとって重要なお金を稼ぐ手段となっている。今回、日本で捕まった韓容疑者は、3年間で50万元(約1,000万円)以上を利益として稼ぎ、その利益率は30%を超える。かつて、中国人が外国でお金を稼ぐ手段は飲食業であったが、現在は代理購買に取って代わられている。

海淘の荷物

ビザの要求に対する違反

A:代理購買を行う人はますます増えているのは、確実に中国国内にこのサービスに対するニーズがあるからだ。同じブランドの商品でも、中国と日本での価格差は非常に大きく、中国人の生活水準と消費水準が高まった現在、消費者が国外に目を向けることはとても自然なことだ。

B:注目すべきは、日本における類似案件の発生はこれが初めてではないこと。2014年10月に3名の中国人コックが勤務時間の合間に中国国内で人気が沸騰している紙おむつを購入し、儲けを出していた。その後、日本の警察によって逮捕され、強制送還の処置がとられた。

C:韓容疑者は代理購買を違法とされた根拠は、出入国管理法である。日本におけるビザは「留学」、「就職」、「経営」、「人文活動」、そして「研修」に大別される。ビザの種類に関係なく、その資格を超えて活動することは許されない。

違法代理購買に対する捜査の厳格化

B:現在、何人が日本において代理購買をしているかは分からない。しかし、確実に言えるのは、ここ数日、日本にいる華人にとって、この事件は注目されている。

A:韓容疑者が逮捕された案件は非常に稀なケースだ。しかし、日本にいる代理購買をしている華人にとっては、小さくない震撼を引き起こした。しかし、不安を感じてる層がいる一方で、代理購買は今までと変わらない日常を取り戻した。

B:日本の華人に対しては警告しておいた方が良い。こっそりとやらない方が良い。大小織り交ぜた荷物を郵便局に持っていく時、郵便局は差出人には興味が無い。しかし、日本税関は郵便の記録を非常に細かく見ており、入出国管理局の情報紹介に応じ、ビザの資格内の活動に合致しているかどうかを調べられている。合法か非合法かはそこで明確に判断される。

C:海外での代理購買は法令遵守することが前提で、裏をかく心理で「少しだけ稼いで、少しだけ脱税している限りは、何も危ないことはない」などと思わない方が良い。

B:高度に法制化されている国家では、「法令遵守」が最大の保険だ。

A:事実上、日本で代理購買を行うこと自体が違法行為ではない。代理購買を行っている者の「身分」、もっと言えば「ビザの種類」が問題となるのだ。日本における留学生の資格は当然留学である。ビザの資格に定めてある活動を超えた瞬間に、入出国管理法の規定に違反し、違法行為となる

代理購買は個人から法人化へ

B:日本で代理購買をしたいのであれば、正式に日本で法人を設立した上でビジネスを行う必要がある。日本では、代理購買は「貿易」活動となる。法務省が許可した経営資格で登記された企業にのみ許可される行為となる。weiboにおいて「V」認証を獲得したいくつかのアカウントが、法人資格をもって日本の代理購買業務を始めている。

C:個人的な意見だが、今後海外での個人代理購買ビジネスは減退し、法人化が進むだろう。企業による大型代理購買は今後の成長市場となる。今まで議論してきたように、海外代理購買は違法となるリスクが大きいということ、更に個人ビジネスが盛んになると同時に有力なブローカーがチャンスの獲得に乗り出してくるからだ。彼らはより多くの利便性を提供する実力があり、組織化されたマネジメント力を持っている。国内外の大手企業がこの市場に参入する可能性もある。

B:確かに。米国アマゾンは既に中国に商品を「直送」するサービスを開始した。

C:「海淘(ハイタオ:海外代理購買の俗称)」をやっている人に警告を発したい。盲目的に代理購買を行わない方が良い。海外代理購買はコスト高だ。商品本体価格を除いて、送料、関税などの費用がかかる。更なる不確定要素は、時間だ。中国税関に一度止められた場合、いつ商品が届くかは誰にも分からない。


なかなかシリアスな内容、かつ「広州日報」だけにまともなことが書かれてますね。結論から言えば、日本にいる中国人留学生が行っている代理購買(中国販売)業務は全て違法ということになります。このことについては、中国人留学生にも明確には分かっていなかったと思います。なぜなら、今回の京都外国語大学の事件によって、寺村個人に対する中国人留学生からの問い合わせが非常に多かったためです。では、なぜ、中国人の留学生(今回の事件は契約社員でしたが)の多くが、このビジネスを行っているのか?皆さんはお分かりでしょうか。

中国人留学生が代理購買ビジネスを行う背景

この日本側の捜査徹底について、中国人の友人の多くからの反応は、非常に複雑なものです。単純に、捜査が厳しくなったことに対する憤りもありますが、彼らも日本で暮らしている以上、日本の法令を守ることについては一定の理解を示しています。複雑な心理は日本の法律だけに向けられているというよりは、中国人特有の「一人で強く世の中を生きていく」という考え方が根底にあると思います。この考え方の裏側には「国家や政府は大衆に対して不条理で厳しいことを言ってくるが、私自身は考えぬいて何とか成功する」という意志があります。

さて、日本にいる中国人も含めた外国人留学生の生活費は月額どのくらいでしょうか。

・学費:6〜7万円/月(語学学校でも大学でも)
・住宅費:4万円/月(水道光熱費込みで最低限)

これで既に10万円を超えてきます。ここから生活費がかかってきます。しかし、留学生が保有する留学ビザに資格外活動許可がされていたとしても、週に28時間以上のアルバイトを行うことはできません。時給が1,000円だとして2.8万円/週、これが4週間で約11万円です。学費と住宅費で10万円に対して稼ぎが11万円、これは親からの仕送りが無い場合、生きていくことはできないことを意味します。

そこに、淘宝網(タオバオ)が、wechatが現れました。wechatで中国国内のバイヤーと繋がり、個人でも淘宝網を使ってCtoCのチャネルで商品を販売して収入を得ることができるようになりました。彼・彼女たちがこのインフラを使わない手はありません。また、個人輸出と貿易との差が曖昧な中で、今回の「稼ぎを得る」ということの資格外活動による違法性が、明確な謙虚の対象となったこと、当局が積極的に検挙に動き出していることについては、衝撃が走るのも無理はないと思います。

今後の展開と事業機会

確実に言えることは、上述されている通り「企業化」です。日本語が流暢な中国人による貿易企業、中国経験があり中国語をしゃべることができる日本人の双方が、企業としてコンサルティング、貿易を行うケースが2015年に確実に爆発するでしょう。中国人の留学生は、これらの企業にアルバイトという形で吸収され、経験を積んでいく形になるのではないかと思います(もちろんそこには色々な抜け道、やり方が存在するということは言っておきますが)。

重要なのは、あくまでも中国人側の目線で目利きをするということと、日本側での商品・商材の開発・仕入れを商慣習に則ってスムーズに行うことを両立させることです。日本人と中国人が上手くコラボする体制がとれれば、かなり面白いスキームを作ることができるはずです。さてこの機会、皆さんどう考えますか?

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