悲劇!中国の教育 全国統一学籍番号システムが新しい”黒(闇)子”を生み出す
中国の”黒孩子(闇子)”ってご存知でしょうか?以前は一人っ子政策の下、2人目ができたものの罰金を払うことを嫌がり戸籍登録をせずに育てた戸籍の無い子供のことを指していました。結果として、中国の人口は約13億人と言われていますが、実際にはこの”闇子”が統計上隠されていて、もっと多いのではないかとの憶測を呼んでいます。彼・彼女たちはID(身份证)を持っていないため社会保障を受けることができず、正式な義務教育や病院に行くことができません。結果として”闇学校”や”闇病院”、字で書くとオドロオドロしいですが実際にアングラなサービスを利用することになります。
今回のテーマは”闇子”ではあるのですが、2013年に中国で導入された新しいシステムがもたらした悲劇です。2013年に中国では全国にて”学籍号(学籍番号)”制度を導入しました。これは全国で生徒ごとにユニークな番号であり、転校や進学する際にその番号が使われます。言い換えれば、この番号がなければスムーズに転校や進学をすることができません。そうです、この学籍番号が本人に何の非もないにもかかわらず消滅し、学籍番号を持たない新しい”闇子”が出現し問題となっています。
2013年9月、広西チワン族自治区出身の何さんは子供の杰くんを連れて深セン市に移住。杰くんは、龍岩区にある東方半島小学校の二年生として転入しました。「紙数枚を持っていくというのが最も複雑なプロセスでした。」と言うくらい手続きは簡単でした。なぜなら、東方半島小学校は私立学校だったため、手続きは何さんと子供のID(身分証)と居住証のコピーがあれば良かったのです。ちなみに中国の私立学校は資本、運営形態、学費などもピンキリですが、いわゆる昔の”闇子”の受け皿にもなっています。
2014年9月、何先生は個人的な原因で、子供を同じ地区にある別の私立小学校に転入させようとしましたが、そこで杰の学籍番号が無くなっていることに気づき、驚きます。「深セン市の学籍番号、全国レベルでの国家統一学籍番号の双方がシステム上から消えていたのです。」
この学校は杰くんの転入を認め、2014年9月から通学を始めています。中国の文科省である教育部に杰くんの学籍番号を申請し続けていますが、これだけ長い間が経過しても何の音沙汰もないそうです。何さんは安心できず、元々の小学校や、街道教育委員会、龍岩区の教育部などに助けを求めたそうですが、返ってくる答えは「現在のところ解決策はありません。政策が発表されるのを待ちましょう。」だったそうです。
他に陳さんの例を挙げましょう。彼の子供は龍岩区にある私立学校に通っていました。2013年に子供が体調を崩し一年間休学をしました。2014年子供が回復した後、陳さんは実家がある梅州の小学校に転校させようとした時に問題が発生します。転校希望先の学校から「学籍番号が見つからないので、転入を受け入れることができません。」と言われたのです。
「学籍番号と身分証は殆ど同じくらいの価値です。学籍番号がなければ”闇子”と同じです。」と陳さんは言います。幸いにして子供は深セン市にて9年間の義務教育の範囲で通学していますから、それほど問題は大きくありません。しかし、高校へ進学すること、更にその先の大学入試を考えた場合、「その時には学籍番号の提出が求められます。無い場合には、子供に勉強を続けさせることはできません・・・。」
背景には、2013年下期に導入された全国レベルでの”電子学籍システム”の問題があります。同年秋に”中小学生学籍管理便法”が正式に実施され、中国大陸の中学生・小学生にはユニークな学籍番号がふられることになり、子どもたちは場所、時間にとらわれず一生涯一つの番号を持つこととなりました。
この法律が施行される前は、一人で複数の学籍番号を持っていたり、個人と学籍番号が分離されていたり、学籍番号が無い子供などの問題が起こっていました。しかし、統一学籍番号システムにより、”虚偽の学籍番号”、”学籍番号の重複”という問題は無くなるという目論見でした。
毎年2月前後に新しい学籍番号が公布されます。学生が転校する際には、ネット上で親が転校先の学校に学籍番号を提示して申請を行うことで手続きが終わります。広東省から河南省へ転校した子供の例では9時間で申請が許可されたそうです。もちろん、システムは今でも改善が続いています。
では、このシステム導入後に”闇子”が生まれてしまうのはなぜでしょうか?龍岩区の教育局の内部者曰く、「残念ながら網から漏れる魚がいます。このシステムは同じ学校で継続的に通学する学生をターゲットとして設計されており、休学や転校をする学生については追加登録をする必要があります。」とのこと。しかし、問題はこの”追加登録”が終わるのかということについて教育局の見解としては全く見通しが立っていないことです。
このシステムは初期段階でアップグレードを重ねているところですが、身分証番号が何らかの理由で重複している学生の学籍番号申請を処理することはできませんし、問題が発生している学籍番号については他の番号に紐付けることができないそうです。
統計によると、龍岩区で国家級学籍番号の追加登録が必要な(要するに学籍番号に問題がある)学生は約760人いるそうです。この760人の学生たちは他の地域に転校したとたんに、学籍番号が無いことを理由に様々な問題が発生する可能性を抱えています。前述した東方半島小学校で档案管理(”档案”とは個人の略歴が全て管理されているファイル)をしている袁さん曰く、「杰くんが遭遇したように深セン市と全国での学籍番号が消失しているというのはやや特殊な例ですが、深セン市の学籍番号は持っていて全国級のものを持っていないケースはかなり多く見られます。私が知っているだけでも、広東省の中で3, 4万人はそのような状況にあります。」
ネット上でのコメントをいくつかピックすると:
- 本当に悔しい。問いかけ素晴らしい!監督管理機構のクソッタレは何してるんだ?
- ”中国特色的(中国を皮肉る際に使われる言葉)”教育制度の悲劇だ。
- 国が僕らを愛してくれない中で、僕達が国をどう愛せよというのか。
- 官僚死ね!
- 自動的にひも付けできないシステムに意味があるの?管理者の脳には問題があるね。
- クソ政府。
- 子どもたちに責任は無いよ・・・。
- 中国・・・、大衆は皆、学ぶところなく、生きるところなく。中国の未来は明るいのか?
- 政策を待ちましょう?笑わせるよね。
杰くんが新しく通う学校では彼の国家統一学籍番号を申請していることは前述しましたが、現在のところ教育部は彼が元の学校で学籍番号の認証を行ったにも関わらず学籍番号が与えられなかった問題について詳しい情報を提供していません。鬼のような教育・実力社会である中国大陸。何さんと杰くんが安心できる日は来るのでしょうか。