結局日本は6月にAIIB加盟か?木寺昌人在中国大使の話を英FT紙が報道

 

やはりというか、情けないというか、昨夜(2015年3月30日)のイギリスのフィナンシャル・タイムズによると、在中国日本大使の木寺昌人氏の口から、日本が将来的にアジアインフラ投資銀行(AIIB:中国が主導するインフラへの投資銀行)への加入を行う可能性があることが吐露されたことが報道され、結果として「米国のみが唯一の例外になる」と中国でも話題になっています。報道によると、木寺大使は日本の商業界のリーダーたちが日本が6月に中国が主導するAIIBに加入することを確信していると指摘したそうです。

 

AIIB

 

木寺大使曰く「商業界は目覚めるのが遅かったが、彼らは既にAIIBに加入する方向でプロモーションをかけており、有効な活動となっている」。米国を除く世界各国が相次いで加盟する中で、日本と米国が慎重な姿勢を見せていましたが、AIIBへの加盟を拒否することでインフラ輸出について日本が不利になることを憂う声が多数挙がったことが加盟への後押しとなったと見られています。

 

麻生太郎財務大臣は26日に韓国が加盟を表明したことについて、「個人的には韓国の加入についてのコメントはしない。我が国としては慎重な態度であることに変わりはない」と閣議の後で答えていましたが、政府内部でAIIBへの加入を求める意見が出始めたことで態度が加入に向けて強く変わりつつあるのは間違いないようです。

 

さて、このAIIBですが、どのようなものであるかについて、まず加盟国がどのような順番で、どの程度まで広がってきているのかを見ると、中国の狙いが少し見えてくると思いますので、段階的に紹介します。

 

2014年10月24日 人民大会堂でAIIBに批准した21カ国

2014年10月24日 人民大会堂でAIIBに批准した21カ国

 

2014年10月24日に北京の人民大会堂において、中国、インド、シンガポールなど21カ国が最初の発起人となりAIIBの設立について共同決定という形で宣言をすると同時に、加盟国となりました。これを期に、中国は積極的にアジア周辺国家へのプロモーションを行います。

 

2014年末時点でのAIIB批准国範囲

2014年末時点でのAIIB批准国範囲

 

そのプロモーションの結果、2014年末時点で、インドネシア、モルジブ、ニュージーランド、タジキスタン、サウジアラビア、ヨルダンが加盟します。

 

2015年3月12日 欧州のAIIB加盟の動き

2015年3月12日 欧州のAIIB加盟の動き

 

更に2015年3月12日にイギリスが突如加盟を表明したことをきっかけとして、フランス、ドイツ、イタリアが加盟。ルクセンブルク、スイスなどの小国も後を追います。更に、その後、EUの会長がEU加盟国のAIIBに対する参加を呼びかけるに至っています。

 

2015年3月27日時点 韓国やロシア、オーストラリアなどが加盟

2015年3月27日時点 韓国やロシア、オーストラリアなどが加盟

 

2015年3月27日時点で韓国が加入。28, 29日にかけて、ロシア、オーストラリア、デンマークが加盟。結果として加盟国は43カ国まで広がりました。

 

2015年3月31日時点で加盟申請が確認されている国

2015年3月31日時点で加盟申請が確認されている国

 

その他、現時点で加盟申請が確認されているのは、トルコ、オーストリア、オランダ、そしてブラジルです。中国を起点として、同心円上に広がっていることが分かります。EUが加盟に積極的に動く中で、先進国で加盟に対して慎重な態度を示しているのが、カナダ、アメリカ、そして日本というのが現状でした。

 

日本と米国が主導権を握るアジア開発銀行(ADB)の参加国が67カ国である中、AIIBは中国がプロモーションをかけた結果、わずか4ヶ月ほどで43カ国まで加盟国が広がっていますから、その影響力の強さは理解していただけると思います。

 

狙いはアジアで年間7,000億ドル発生すると見込まれているインフラ開発需要です。中国は政府と民間が一体となってこの市場を確保する動きを見せています。日本がODA、ADBを使い分けてアジアのインフラ需要を確保することを戦略的に行ってきましたが、中国はその主導権を確保できないと見るや、自分で創ってしまったということです。

 

さて、昨日の記事でも触れましたが、中国は2015年3月28日に中央政府主導で「シルクロード、21世紀型海上シルクロード戦略」を発表しました。

 

シルクロード経済圏(上)、21世紀海上シルクロード(下)

シルクロード経済圏(上)、21世紀海上シルクロード(下)

 

中国を起点として、旅行、ショッピング、文化・教育の面で、西は欧州、北はロシア、南は東南アジアとの交易を盛んにするグランドビジョンです。日本は明示的に描かれてはいませんが、中国政府としては日本一国に構っていられない状況でもあるので、まず世界的な動きを作れば日本もいずれ巻き込まれざるを得ないという考え方をしているはずです(ある意味相手にされていないとも言えます)。

 

下記の動きを読み解けば、中華思想的な中国の今後の発展戦略が読み取れるはずです。

 

  • ADBに対するAIIB
  • シルクロード・21世紀型海上シルクロード戦略
  • 越境EC, 自由貿易区などを主軸とした巨大消費力市場の戦力化
  • モバイルペイメント決済システムの推進
  • 人民元の自由化と国際基軸通貨化
  • ダボス会議に対するボアオ(海南島)フォーラムの開催
  • 中央・地方系国有企業幹部や官僚の汚職摘発
  • 足下で比較的おとなしい外交姿勢

 

ポイントは、人民元の自由化、国際基軸通貨化です。これは中国にとっての最終目標です。そこに至るための準備を着々と進めているという形です。アメリカが巨大な軍事力と消費力を背景に牛耳ってきたこの世界に対して、中国も同じような力を発揮してプレゼンスを上げてくることは間違いありません。

 

韓国は日本よりも内需の規模が小さく、外に出て外貨を稼ぐことしか生き延びる道が無い中で、比較的はっきりと中国へ寄っていく姿勢を表明しました。同じように、米国と中国の間に挟まれる日本の判断は非常に難しいものになりますし、そもそも日本に独自の判断能力が備わっているのかも疑問です(米軍が提供する安全保障の中での外交ということが前提でしたから)。

 

このAIIBの話題をADBとの対立軸だけに置き換えて読むと大きな判断を誤ることになるでしょう。中国は習近平政権となり国家的にダイナミックに、かつ内政と外交政策を連動させる形で次々とグランドビジョンとそれを支える具体的な施策を打ち出してきています。日本は大国ではありませんが、まだ戦える武器を持っています。中国と米国との間で、今後の国家戦略について真剣に考えなければ、戦略的な両国に弄ばれて、いずれは衰退していくことになるでしょう。

 

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