中国李克強と面会した90後の大学生IT起業家、中学時にネット中毒だった
春節(旧正月)期間中、広東省出身の25歳の大学生が李克強総理と座談会で面会するという話題が大陸を駆け巡りました。彼は大学生にして起業家。学生にアルバイトを紹介するアプリを開発し、リスク投資から3度の資金調達を成功させています。大学生の起業家代表ということで、中南海に呼ばれ、総理と対談するにまで至った正に「中国夢(チャイニーズドリーム)」を地で行く少年です。新京報が彼に密着して取材した内容をお楽しみ下さい。
中国で「大学三年次の起業」がブーム、「90後」の起業家3人の物語から
総理と会った「90後」大学生はネット中毒少年だった(新京報)
2015年2月13日、「春運(春節期間中の帰省ラッシュ)」期間中、北京から離れる民族大移動が見られる中で、「兼職猫(アルバイトキャット)」アプリの創業者である王鋭旭は広州市から北京市に着いたところだった。企業とパートナーシップの商談をすること以外に、メディアのインタビューを受けた。更に、元「熱酷遊戯(ゲーム系投資ファンド)」のシニアリサーチャーである古晔を訪ね、会社の発展のために更なる技術サポートを欲していることを伝えた。
まだ25歳の王鋭旭が北京に来るのはこの2週間で2度め。1月27日、中南海(中国の政治の中心)のある会議室で、中国国務院総理の李克強が科学教育文化分野における代表を集めた座談会を主催した。彼以外の9名の代表、復旦大学好調の許宇生、バスケットボール界のスターである姚明、芸能人の陳道明などの大物たちと比べて、「90後(1990年代生まれ)」の大学生起業家の代表である王鋭旭はとても純粋無垢に見えた。しかし彼は少しも怯える様子を見せなかった。
「身分は低いけど頑張り屋」、王鋭旭は微信アカウントの中の自己紹介でこう記している。彼の起業は次のようにして実現された。彼は潮汕人(広東省の一部地域)特有の商人的気質を持ち合わせ、大学期間に20以上のビジネスコンテストのチャンピオンとなった。2014年、大学在学中に「広州九尾科技公司」を創業、大学生がアルバイトを探すためのアプリ「アルバイトキャット」を開発した。
現在、「アルバイトキャット」は全国60都市をカバーし、登録アカウント数は140万以上、企業価値は1億元(20億円)を超えており、三度目のVCからの資金調達に成功、最多で1,000万元(2億円)を調達している。
CEOはネット中毒の少年
王鋭旭を始めて見たのは、汕頭華僑中学だった。2015年2月7日の広東省汕頭市は暖かく、身長175cmの彼は黒縁メガネを掛け、ブルーのシャツにグレーのセーターを羽織っていた。多くの少女たちが通り過ぎる際に「格好いい!」と呟いていた。
華僑中学は彼の母校だ。1時間後に彼は1,000名程の後輩たちに、高校時代の「逆襲」体験を語ることになる。華僑中学において現在の彼はスターだ。2週間前に李克強総理の座談会に出席したからだけではなく、目下大ブレイクしている「アルバイトキャット」アプリの創業者でもあるからだ。講演前、メディアは王鋭旭に押しかけた。皮膚の浅黒い彼、詰め寄る記者の様々な質問に対して淡白に答える姿は、同じ年頃の若者と比べて成熟して見えた。
ある記者が訝しげな雰囲気で「本当に企業価値は1億元もありますか?」と質問すると、王鋭旭は、「私は今1,000万元の資金調達をしました。相手方に20%の持株比率があるので、企業価値が1億元あると言っても良いと思います」と答えた。インタビュー後、王鋭旭は微笑みながら手を振って舞台に上がり、1時間ほど講演をした。
なかなか想像できないが、華僑中学を卒業した当時、王鋭旭の成績はあまり良くなかった。高校一年時、成績が飛躍的に伸び、全クラストップの成績を収めた。講演が終わる前に、彼が「今日は皆さんの発言に感謝しています」と言ったところ、会場全体が笑いに包まれた。
更に、想像することが難しいことは、彼自身が華僑中学には今まで全く縁の無いたった一人の「ネット中毒」患者であったということだ。中学生の頃、彼の家庭は破産、現実を受け入れることができなかった彼は、不登校となり、インターネットの世界に逃げ込んだ。当時、高校入試で280点(満点は500点)をとり母親に見せると、母親は彼に平手打ちを見舞った。この一撃が王鋭旭を現実に引き戻すことになった。彼は、家の復興が自分にかかっていることを意識するようになった。王鋭旭はネット中毒から抜け出し、必死で勉強した結果、1年間浪人して汕頭華僑中学に合格した。
口下手な彼が流暢に話すことができるようになったのは、大学時代のサークルでの訓練の結果だ。広州中医大学に入学した頃、王鋭旭は一気に9つのサークルに入った。外部広報活動を任ぜられることが多く、多くの活動費を使うことができた。「異なるタイプの人に会って分かったことがあります。人とは人の言葉で話をし、お化けと会えばお化けのことばで話をするということです」。
今、王鋭旭はメディアに対して爽やかに接しているだけではない。有名人の名を借りて自らを装っているのだ。王鋭旭はこれを「有名人の威を借る」と言う。起業した頃、彼は会議で常に「李嘉誠(長江グループの創業者、同郷)はいつも人間の潜在力は無限だと語った」と言っていた。2月7日の講演で彼は、この話は元々自分が話した内容であることを明かした。「チームを鼓舞するときに、有名人の勢いを借りることで、いい結果が出ている」と言う。
騙された後に世界を変える
王鋭旭の実家は汕頭市の郊外にある鎮だ。2月7日の午前10時、王鋭旭は電動スクーターに乗って村の入り口までメディアを迎えに来た。彼の実家は2階建て、石灰が塗ってある。王鋭旭の父親は私たちに潮汕功夫茶を淹れてくれた。母親はセーターのほつれを直していた。
王鋭旭がこの日よりも前に家族と話をしたのは1月27日。その日の午後、王鋭旭は母親に電話をかけ新聞報道に注意しておくことを伝え、それ以外は多くを語ることはなかった。当日の夜、王鋭旭の両親は息子が李克強総理が主催した座談会に出席したことを知った。席上、王鋭旭は自分の経歴から大学生の起業に対して提言を行い、大学生の起業を支援する政策を期待することを伝えた。王鋭旭の記憶では、総理は彼の起業の経緯に理解を示すだけでなく、彼を励まして「若い起業家を本当に讃えたい」と言った。
母親は、「息子の起業が認めらる」ことなど起こりえないと思っていた。彼女は最初から息子に大学をきちんと卒業してもらうことを望んでいた。「起業などは大学での研究には及びもしないのです」と。王鋭旭が大学一年の年初に、母親は彼に1,000元の生活費を与えた。女の子を追いかけるために、彼は半月でそれを使ってしまった。王鋭旭が母親に再び生活費を要求した時に、母親は電話口で泣いた。「潮汕地方の男はやや男性上位主義です。二度と身近な女性に涙を流させることはできません」、王鋭旭は自分でお金を稼ぐことを決心する。
彼がアルバイトを探し始め、すぐに「交通費と研修費を支給」、「アルバイト用の制服代支給」などの嘘を知ることとなる。ある時は、「4年間のアルバイトの機会」を得るために、250元の会員カードを買わなくてはいけないこともあった。同郷の人間が集まる会合で、他にも6, 7名騙された学生がいることを知った。これで目が覚めた。この悲惨な経歴が、彼が「アルバイトキャット」アプリを作るアイデアに繋がった。
大学二年の時、王鋭旭は学校委員会の外部連絡部長となった。アプリ会社と協業の商談中に、相手方が王鋭旭が自分でチームを創り起業することを提案してきた。王鋭旭は家族に内緒で、4人の同級生と「魔灯校園メディア(以下、魔灯)」を設立。「投資はしない、各高校の団体がビジネスをする中で、企画、イベントなどを支援し、その中からお金を稼ぐ」と。
魔灯の業務は急速に発展。月次の売上高は20万元(400万円)を突破、クライアントは300社を超えた。しかし、家賃や日常の支払いもあり、80数名のチームへの報酬を手厚くすることはできなかった。メインとなる業務がクライアント企業に頼る形で、「自転車操業」であり、早速魔灯「離れ」が起こった。
もう二度と人の嫁にはならない、であれば自らの製品やプラットフォームで発展する必要がある。王鋭旭はどのようにビジネスモデルを変えるかを必死で考え始めた。チームの中で、インターネット関係をやっている後輩がいて、彼の興味を牽いた。東洋医学を学ぶのにインターネットに頼る?王鋭旭は自分の知らない世界であると認めた。まず認めるところから始めたのだ。そして、2013年8月に「広州九尾信息科技有限公司」を設立した。
「アルバイトキャット」のスタートダッシュ
2月9日、記者は王鋭旭と一緒に九尾公司を訪問。広中医数学家庭基地(産業パークの名前)の一角に「インキュベーションセンター」がある。外から見ればただの教室にしか見えないが、中に入れば無数の会社が林立している。インキュベーションセンターは4階建て、50数名の「アルバイトキャット」のスタッフは200㎡のスペースで仕事をしていた。王鋭旭のオフィスは10㎡も無い。半透明のガラスで仕切られた独立した部屋になっている。
当日、王鋭旭はコンピューターの上に張られた1枚の数値資料を見せてくれた。そこには、「アルバイトキャット」が新たに2,700のアルバイトを紹介できるようになったこと。更に、その40%が違法な仲介料をとられていたものが、このサービスを通すことにより仲介料をゼロとすることができ、騙されることもなくなるという。これ以外に、「アルバイトキャット」を使うことで、バイトを探す人が企業の資料やデータを確認し、検討することができるようになる。
「アルバイトキャット」を創業した頃は20㎡のオフィスから始まった。10数名のスタッフがウサギ小屋状態で仕事をしていた。広州中医大学の食堂が彼らのブレインストーミングのための場所だった。王鋭旭は毎晩スリッパを履いてやってきて会議を開き、遅くまで食堂で過ごし、最後には警備員に追い払われた。
九尾公司は、創業初期にキャッシュフローが緊張する問題を抱えていた。会社を存続するために、王鋭旭と同僚の重拾はコンドームの販売促進のアルバイトをしていた。2014年、第一回広州青年イノベーション大会で、王鋭旭の「アルバイトキャット」がチャンピオンを獲得。各種のリスク投資機関が接触し、現在の企業価値がついた。
李克強総理の座談会から戻った王鋭旭には基本的に何の変化もなかった。王鋭旭の目標は中国の大学生のためのアルバイトプラットフォームを創り、企業を上場させることにある。そのためには、更なる技術的なサポートが必要になる。
2月13日、王鋭旭は北京を再び訪れた。記者に対して、北京で有名な羊のシャブシャブを食べてみたいと言った。最も重要な目的は、「アルバイトキャット」における技術面でのシンクタンクを探すことだ。2時間の夕食の時間、彼はスマホを殆どいじらずに、「熱酷手遊」のシニアリサーチャーとインターネットについて熱く語っていた。レストランから出た彼はすぐにスマホを開き、眉をひそめた。「メッセージがたくさんあり過ぎて全部に目を通すことができない」。彼のスマホには2,800を超える友人が登録されており、「プライベートだった微信は、すぐにオフィシャルなものになってしまった」と言う。
王鋭旭のアシスタントである古埼氏が記者に言うところでは、なんとか最大の株主であり続けるようにしたいと。王鋭旭は毎月、大部分のスタッフと同じように固定給をもらっており、それは「たったの数千元で、会社のシニアリサーチャーが万元を超えているにも関わらずです」とのこと。「シニアリサーチャーより給料は低くあるべきです。今、資金はそれほど多くありません。会社の大部分の資金は市場でのプロモーションと研究開発に使われるべきです」と、王鋭旭は言う。
最も苦境に陥った体験
「2つの経験があります。ひとつは大学で起業した頃です。いつもスリッパを履いて食堂に集まって会議をします。食堂の明かりが落とされる頃、警備員は私たちを追い払ったものです。二つ目は広州九尾科技公司を設立した頃です。資金の余裕がなくなってきた時、私たちは技術者を養っていくために、コンドームの販売促進をしました。男の子もいたし、女の子もいました。」
今年の希望
「今年は「アルバイトキャット」で大学生セグメントにおいて600万アカウントまで増やしたい。」
編集後記
写真見ましたか?なかなか格好いいですよね。インテリ風、清潔感があって。道行く女性から「格好いい」と言われるのも分かります。起業のきっかけが女の子を追いかけるためのお金を自分で稼ぐというもの。起業自体を家族に隠していること。後から知った母親は「起業よりも研究」と思っていること、など。「90後」自身、もしくは彼・彼女たちが置かれた環境がよく分かる逸話です。
将来的には上場を目指すこと、そのためには技術が肝心なので、技術者には自分よりも多くの給料を払い、場合によっては彼らのために経営者自らがアルバイトをするというところ、この辺りは若いにも関わらず、起業の本質がよく分かっているなと驚きます。
広東省には「潮汕人」と呼ばれる人を産む地域があります。広東省の汕頭市、潮州市などの一帯を指す用語で、この辺りから卓越したビジネスマンが排出されていることを指しています。文中に出てくる長江集団の創設者である李嘉誠もそうですし、このサイトでも紹介しているテンセントの創業者である馬化腾もそうです。浙江省と並んで商人を輩出する街、一度行ってみたいですね。