資生堂が中国本部を撤廃 その背景にある日系企業のマネジメントの弱さ
昨今、中国では外資系企業が内陸から撤退する傾向があるのではないかというニュースが議論を巻き起こしていますが、資生堂の組織再編の中で中国のウェイトを落とされているという記事が羊城晩報から出ています。このトレンドを日本企業としてどう読むか?です。
資生堂のオフィシャルサイトにて、2016年に全方位でのブランドと地域に関するマネジメントの強化を発表した。この発表の直前、資生堂は一連のマネジメント改革の実施を行うことを発表、その中でも特に注目されるのは:従来のマネジメント体系の中に独立して設置されていた中国業務部を国際業務部と合併し、グローバル事業部という形で組織再編を行ったことだ。
このことを言い換えれば中国業務部が取り消しされたということだ。今では、どの化粧品メーカーの経営トップも同じことを言う、「中国は我々にとって非常に重要な市場である」と。しかし、全ての外資メーカーが中国市場という美味しいケーキをどうやって食べようか、と知恵を絞っている中で資生堂がこのような決定をしたことは「有銭任性(金があるから何でもして構わない)」ということに当たるのだろうか?
中国の消費者に的確にミートする方法はない
資生堂が2014年末に行った2014年度の上半期の財務報告における中国に関する記述は、「為替によるプラスの影響を除けば、中国における売上は下降することが予想され、中国の路面店の在庫水準の適正化と、グループとしての年度全体に対する各種の目標数値の大幅な調整が必要となる」ことが謳われている。
「中国の消費者の嗜好に合わせることができなかった資生堂の製品戦略に問題があったと思います。」化粧品業界の専門家が羊城晩報の取材に答えて曰く、「資生堂の商品開発は極めて硬直的だと思います。確かに結果として資生堂がアジアの化粧品企業の中で確固たる位置を築くことができた訳ですが、最近の中国の消費者は非常に新しいものに目移りすることが多く、BBクリーム、CCクリームなどの一連の商品の大ヒットに対して後手に回ったことは否めません。外資系ブランドもこぞってこれらの製品を発表し、中国の消費者ニーズにフィットしていきました。ロレアル、Biotherm, ランコム、エスティ・ローダー、極めつけはOLAYに至るまで独自ブランドのCCクリームを投入しました。」
一方で資生堂の対応は極めて静かなものだった。彼らの売り場を見ると、その多くは定番製品で、消費者には目新しい印象を与えることはない。「若い女性の消費者たちは皆あたらしもの好きです。口コミで決まった商品だけ買うわけでは決してありません。」と言うことだ。
強力なライバルの出現
時間的観点から言えば、まるで韓国のハンサムな男たちが中国人女性を魅了するかのように、韓国系ブランドが中国に入ってきたことも挙げられる。韓国文化が中国に広まって久しく、韓国製ブランドはそれほど中国への現地化を進めずとも中国消費者から信頼を得るようになった。
去年、韓国系ブランドであるAmore Pacificは上海に現地工場を建設し、生産能力はそれまでの30倍、中国市場だけでなくその延長線上には東南アジア市場も見据えている。Amore Pacificの総経理はデータを根拠として、ここ10年で中国における売上の年平均成長率は47%と急速に拡大していると言う。
日本は国内が不景気で、更に2014年には消費税が5%から8%まで引き上げられ、追い打ちをかけた。このような内憂外患の状況の中で資生堂にできることはなかった。更に中国と韓国はFTAにサインをした結果、韓国から中国に輸入される化粧品の関税はゼロとなる。
以上の理由から資生堂の中国市場に対する姿勢は揺れている。報道によると、中国市場での売上が断続的に下降する資生堂は東南アジアに活路を見出そうと、ベトナムに20億円の投資を行い、東南アジアでの生産能力の拡大を図っているとのことだ。
編集後記
自分にとっては、「またか」という感想です。資生堂だけではなく、日本企業が中国を敬遠して東南アジアに一気に向かうスタンスは本当に正しいのでしょうか。一カ国でこれだけ巨大な市場がある上に、隣国であるというメリットを活かすことはできないのでしょうか。東南アジア市場は確かに成長途上にありますし、親日のイメージがありますが、それぞれの国が小さいということと、地形上輸送などの運営効率がそれほど高くないという点で、中国と比較した場合にそれほどの魅力があるとは思えません。この辺りは日本企業の右に倣え精神というか、「赤信号みんなで渡れば怖くない」的な考え方が裏側にあるように思います。
韓国企業はソウルからエース級の人材を大量に送り込み、ソウル型のマネジメントを徹底的にやります。欧米企業はエース級を少数送り込んだ上で徹底的に現地人材を登用してマネジメントを行います。日本企業はそのどちらでもありません。送り込まれる人材はエース級とは呼べず、更に少数、しかも現地人材を積極的に登用しません。これでは、スピードは出ませんし、効率は上がりません。この状況は中国であっても東南アジアであっても変わりません。東南アジアでも蓋を開けてみれば、欧米、韓国系企業との相対比較で日系企業が躍進しているとは言えないということになるように思います。相対的なダメージが少ないというだけで東南アジアシフトを行い、中国市場から目を背けることは中長期的に見てあまり適切な判断ではないと考えます。