全人代期間に連日の大型捜査介入 | 中国石油の「西北の虎」に規律委が事情聴取

昨日(2015年3月15日)の中国第一汽車集団董事長の徐建一に続いて、2015年3月16日には中国石油天然気集団公司(ペトロチャイナ)の董事長である廖永遠が中国共産党中央規律検査委員会 によって重大な規律違反の疑いにより取り調べを受けることとなりました。全人代開幕中に連続して中央系国有企業の中でも強大な権力を持つ自動車とエネルギーのナンバーワン企業にメスが入っています。テンセント財経の記事を引用します。

 


 

2015年3月16日、中国共産党中央規律検査委員会の公式声明で、中国石油天然気集団公司(ペトロチャイナ)の総経理である廖永遠が重大規律違反の容疑で捜査対象となった。注目すべきは、2015年3月1日に中央統一部署、中央第二巡査グループがペトロチャイナ内偵に入っていたことだ。内偵期間の半月が経過したところで廖永遠が捜査対象となったことは、中央規律検査委員会の新年における腐敗(汚職)打倒活動のスピードの速さを示している。

 

過去2年ペトロチャイナではハイレベルの職員が調査対象となる事件が頻発。元ペトロチャイナ董事長、元国務員国有資産監督管理委員会(SASAC)の主任であった蒋洁敏、更に元ペトロチャイナ副総経理兼大慶油田有限責任公司総経理の王永春、元ペトロチャイナ副総経理の李華林、元ペトロチャイナ副総経理兼長慶油田分公司総経理の冉新権、元ペトロチャイナのチーフ地質エンジニアで地質探索開発研究院の院長でおあった王道富などが立件されている。

 

廖永遠

 

過去の過失記録処分

公開資料によれば、廖永遠はかつてウィグル自治区に位置するペトロチャイナ・タリム石油の中で油田開発を指揮部と石油管理局の任に当たり10年近くタリムに滞在した。1999年タリム油田分公司を一手に掌握、「西北の虎」と称されるようになった

 

その「西北の虎」は、「中石油腐敗(汚職)案(2013年にペトロチャイナに捜査の手が入り大量の摘発に繋がった案件)」の発生後の2013年5月にペトロチャイナの総経理に任命された。時の董事長は周吉平で満60歳、規定に基づけば中央企業の責任者の定年退職期限は一般的に60歳で63歳までの延長が認められていた。「西北の虎」は、退職間近の周吉平董事長の側近となった。

 

2010年7月16日にペトロチャイナ傘下の大連中石油国際储運有限公司の製油タンクの輸送管が爆発し数人が死傷した事件で、ペトロチャイナの安全総監の役割を担っていた廖永遠は重大な過失の記録を書面に記録された

 

「原油価格低迷は気にしない、何も慌てることはない」

ペトロチャイナの公式Webサイト上での廖永遠の最新情報は、2015年3月10日に湖南省省長一行と会談を行ったというプレスリリースだ。廖永遠の公式の場での発言記録は極めて少ない。廖永遠は、2014年のペトロチャイナグループの成果はややチャレンジングな一年であったと表明。利益率を維持するプレッシャーは巨大で調整業務に追われた。彼は外部環境はペトロチャイナにとって有利に働くと分析し、「原油価格の低迷については気にしない、何も慌てることはない」と強調したと言う。

 

かつての指揮をとった長老たちによる高い評価

ペトロチャイナを引退した人間の話では、蒋洁敏(元董事長)がSASAC主任に任じられる遥かに前から、ペトロチャイナの内部では、「廖永遠は地方都市で十分に鍛えられた経験を持っており、長老たちは彼が有能であることを確信していました。」ウィグルのタリム油田で突出した結果を出したことが、その後の彼の評価に繋がっていると言えよう。

 

2004年1月にペトロチャイナは内部で、廖永遠、徐分栄、汪東進の3名をグループの総経理助理(アシスタント)に任命。2005年11月に廖永遠は副総裁、2007年2月に副総経理、2008年5月に執行董事へとステップアップ。その後、2013年5月14日、「西北の虎」の異名を持つ廖永遠は正式にペトロチャイナの総経理・董事に任命された。

 

廖永遠はペトロチャイナにおいて2015年で捜査の手が入った一人目となる。ペトロチャイナ絡みの汚職案件で捜査対象となっているのは既に46人を越える。ペトロチャイナは中国において最大の石油、天然ガスの生産・販売者であり、売上規模が最大の企業のひとつだ。ペトロチャイナには後どのくらい打倒すべき「虎」がいるのだろうか。

 


 

編集後記

中国企業の内、その冠に「中国」という名前をつけることができるのは、いわゆる中央系国有企業と呼ばれる100数社に限定されており、中国共産党の関与の下で強大な権力や利権を持っています。 中国第一汽車集団の徐建一に対する取り調べの記事にも書きましたが、中国の共産党系エリートは、地方政府と国有企業との間を行き来して経験を積んでいきます。政治、経済のリーダーになった場合、お互いを理解しているため、ダイナミックな判断と実行ができるというメリットがある一方で、政治と経済の間に発生する利権への癒着や、政治闘争に巻き込まれる可能性が誰にでもあります。結果として政権が変わったタイミングで攻撃を仕掛けられるという構図です。今回は習近平の合計10年体制の内3年目に入った段階で「腐敗(汚職)活動一掃」という名の粛清の手が及んだということでしょう。

 

この一連の中央系国有企業への打撃を見ると、習近平指導体制はかなり強固なものとなりつつあると感じています。今回の全人代では国有企業改革を掲げ、その数を半数程度まで絞り込むことが予想されています。また、中央系国有企業の中でもエネルギー系企業の力は非常に強かったのですが、真正面から事に当っているところを見る限り、習近平政権は3年目にして基盤を完全なものにつくり上げることを目標としていることが見えてきます。今回の全人代に先立って、元中央電視台(CCTV)の記者だった柴静による環境汚染告発動画「穹頂之下」は、中央政府によって周到に準備されたシナリオの幕開けであったという可能性は否めません(それでも動画の内容自体には価値が非常にあると思います)。

 

3年目が終わる2016年、内政についての基盤を盤石にした習近平政権は必ず外交に取り掛かります。日本としては見て見ぬふりはできません。中国をどう捉えるのか、この一年でどのような判断をして、どのように動くのか、早めに結論を出すことが個人としても企業としても重要であると感じています。

 

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