香港はどこへ行くのか? 立法会による大陸側改革案を否決のまとめ
2016年6月19日、香港の行政長官を選出する選挙制度において中国側が提出した制度改革案を香港立法会(議会)が反対多数で否決しました。立法会の定数は70。法案可決には47人の賛成が必要でしたが、事前に反対票が1/3を超えることを見越した親中派議員の大半が時間稼ぎのため退席するなどしたため、賛成8、反対28という結果に終わり方案は否決。民主派27人に加え、親中派1人も反対に回りました。
FNNnewsCHより
香港の行政長官選挙制度とその争点
今回の争点になった選挙制度について触れておきます。香港は1997年の中国への変換以来、”一国二制度”の下、特別行政区とされており、行政長官がリーダーとなるかたちとなりました。行政長官は、ビジネス界、政界のリーダーたちからなる1,200人の団体(間接)選挙によって選ばれる仕組みとなっており、今まで香港市民全員には選挙権はありませんでした。
しかし、昨年から中国側の提案で、
- 香港市民に一人一票の選挙権を与える
- 候補者は1,200人からなる”指名委員会”から選出する
という改革案が出されていました。
1のポイントにより、中国政府は”香港の民主化の一環”としてこの改革案を位置づけています。香港市民の一部は、2の部分について指名委員会のシステム上、中国側の息のかかった候補者が選出されることになるため、例え全員が投票券を持ったとしても意味がないことを指摘しており、そこが香港立法会における争点でした。
香港の選挙制度によって広がる中国との心の亀裂
昨年2014年秋に”雨傘デモ”が行われたことは記憶に新しいかと思います。このデモが、正に行政長官選挙制度改革(彼らにとっては”改悪”)に反対するためのもので、行政長官の解任と方案廃棄が謳われていました。
更に選挙の2日前に香港にてサッカーワールドカップ予選のブータン戦が行われましたが、試合前の”中国”国歌斉唱の際に、香港サポーターと観客から終始ブーイングされるということが起こり、香港、中国の間で波紋を呼んでいます(下記の動画、国歌が始まるのは約30秒後)。
実はこのブーイングには香港と中国の感情を更に刺激する背景があります。2015年6月17日、ブータン戦の当日、正に世界中でワールドカップ予選が開幕することを表したポスターを中国サッカー協会が掲示しました。
このポスターは9月3日、11月17日に行われる”中国 ✕ 香港”戦に焦点を当てたものとなっています。問題視されたのはその内容です。
如何なる相手も甘くみてはいけない
やつらには黒い肌、黄色い肌、白い肌、これだけの多様な選手がいる
この引用分2行目の表現が香港中で”レイシズム”であると反発を買い、香港サッカー協会は呼応するかたちとして下記のポスターを制作し、掲示しました。なぜ人種差別なのかというと、香港には有色人種系の帰化人選手が実際に所属しているからです。
なめられちゃいけない
俺たちには黒い肌、黄色い肌、白い肌のメンバーがいる
しかし、その目標は一緒だ!
この問題については、中国サッカー協会側が、人種差別の意図はなく、誤解は広告代理店の責任であるとして、香港側に対して謝罪をしています。いずれにせよ、18日に控えた行政長官選挙の立法会投票のこともある中で、先ほどの”中国”国歌に対する大ブーイングとなったと思われます。
香港側と中国側の意見は?
・王振民(清華大学法学院院長、香港基本法マカオ基本法研究会会長)
方案が否決されたことは大変残念ですが、世界の終わりが来たわけではありません。
香港はもう一度未来について前向きに良く考えていただきたい。その上で、認識を共にした後で、私たちは進みだしましょう。
香港にはテクノロジー系、インターネット系の新しい潮流も見られていません。政治に時間を遣いすぎているのです。
政治の話をしている間に、他の地域は急速に発展していきます。
・中国人民日報(2015年6月19日04版)
この方案が否決された全ての責任は反対派にある。
彼らはこの機会を利用して中国政府、香港政府をまるで悪魔であるかのようにあげつらい、対抗している。
彼らはこの方案否決によって、香港市民から発展のチャンスを奪った。
彼らは香港の民主化の発展における”破壊者”である。
・香港市民(香港大学調査)
51%の香港市民が方案通過に賛成、37%が反対。
この騒動によって香港と中国の状況はどう変わったか?
香港は金融と貿易で成り立っている地区であり、その要は中国大陸です。中国人にとって香港は買い物に行く地域であり、ビジネスレベルでも消費者のレベルでも香港の大陸に対する経済的な依存は非常に強いものがあります。また、大陸起業も実質的に香港にヘッドクォーターを置いているケースも少なくなく、事実上での融合はかなり進んでいます。
香港をよく知る友人たちの間では、中国大陸からの人の流入がここ数週間で激減しているようです。自分の友人の大陸に住む中国人の友人・知人たちも、”雨傘事件”の際にかなり複雑な気持ちであったと言っています。この一連の騒動によって、大陸の一市民たちの心が傷つけられ、香港から気持ちが離れていったことは間違いありません。
香港側の反対派は今回の騒動で、中国政府に対してだけでなく、骨抜きになっている現在の行政長官に対してもNOを突きつけている状態となっており、自らデッドロック(動けない)状態に陥っています。結果としてデモが置き、ブーイングが置き、実際の否決となり、経済活動と人の流入が停滞するかたちです。
現在、中国人から見て、香港は唯一のビジネス、消費の地ではありません。以前ではタイ、今では韓国や日本に大量の旅行客が押し寄せています。もちろん為替の影響もあるとは思いますが、香港がデッドロックしている間に他の地域が発展するという王振民のロジックは嘘ではないでしょう。
編集後記
結論として2017年の行政長官選挙は今と同様に親中派主導と間接選挙で実施されます。中国特別行政区の位置づけが失効するのは1997年から50年後となる2047年。既にかなり開き始めている中国人の香港に対する心が今後どう変わっていくか?もしくは、香港人が反対を求めるだけでなく、何か、彼ら自身でしかできないものを生み出すことができるか?結局は、個人、ひとりひとりの覚悟が求められているのだと思います。
また、この話は、日本と中国との関係、日本とアメリカの関係に置き換えて考えるのも良い議論だと思います。