中国自動車業界の「狂犬」長安汽車集団の張宝林総裁が”中国製造2025”を語る

「中国自動車界の狂犬」と呼ばれた重慶長安汽車グループの総裁、張宝林の新春インタビューが新華汽車に掲載されていましたので紹介します。 清朝時代、あの李鴻章が設立した歴史のある会社で、フォード、マツダ、スズキと合弁しつつ、自主ブランド製品にも力を入れる中国自動車集団のビッグ5の一翼を担う長安汽車のイノベーション、環境保護などについての戦略が紹介されています。

 


長安汽車集団の張宝林総裁「中国製造2025」を語る(新華汽車)

 

2015年3月11日、中国長安汽車集団の総裁である張宝林が新華社を訪れ、経済「新常態」の下、チャンスに対してどのように挑んでいくのか、自動車業界がどのようにしてイノベーションをドライブしていくのか、「大きくなる」ことから「強くなる」ために何をすれば良いのかについて語った。

 

張宝林

 

李克強総理は、「政府工作報告」の中で、2015年のGDP成長率の予測を約7%と設定、経済の安定性釣化と構造調整が必要であるとした。このような「新常態」の下で、中国自動車業界の将来の発展趨勢についてはホットトピックとなっている。張宝林は、「3つの”有”」で中国の今の自動車業界を形容することができると言う。それは、「貢献が有る」、「挑戦が有る」、そして「希望が有る」の3つだ。中国はここ数年連続で世界最大の自動車市場だ。2014年の中国自動車生産台数は2,300万台を超え、GDPに占める割合は11%以上、就業者は1,000万人を数えるという膨大な数値だ。しかし、中国の自動車産業は”挑戦”の局面にある。前述したように経済が「新常態」に入り、自動車業界も大幅な調整局面に直面している。同時に、グローバルカーメーカーが中国において工場を増設し続けており、世界でも最も苛烈な競争環境に置かれている。

 

しかし、張宝林は未来が希望に満ちあふれていると言う。中国自動車業界は2015年はもちろんのこと、今から数年間は、依然として良い発展環境にある。中国GDPは7%ではあるが安定的に成長し、自動車業界に対しても安定的な経済発展機会を供給する。その間、この苛烈な競争環境の中で切磋琢磨することにより、中国自動車産業の能力は更に高まっていく。当然ながら、中国には依然として巨大な自動車消費ニーズがあることも自信の根拠となる。業界では、将来数年において、中国の新車販売台数は2,000万台、更には3,000万台規模になると予測されている

 

顧客のニーズで内部変革、反転攻勢へ

では、企業はどのように発展すべきだろうか?張宝林は長安汽車が外部環境の変化に対応する能力を高める必要があると言う。2014年、長安汽車集団の販売台数は255万台で、前年比19%成長、シェアは12%、業界随一の成長率を誇っている。特に、長安汽車の自主ブランド乗用車は、業界が16ヶ月前年比割れする中で成長、一年で82万台を販売し前年比49%成長、自主ブランドセグメントのシェアはなんと40%、中国ブランドの中では規模、成長率ともにナンバーワンだ。

 

経済が急成長から安定成長に入り、中国自主ブランド製品がその地位を低下させていく中で、長安汽車はなぜ逆に成長することができるのだろうか?張宝林曰くその秘訣は「苦練内効(市場の要求に適応して内部を変化させること)」に尽きるそうだ。まず、長安汽車として、今までの規模を追求するモデルから、品質とベネフィットを追求するモデルに舵を切った。長安汽車としてのレベルアップを続け、その結果は文章に残しているそうだ。とにかく何よりも先に顧客に密着し、真面目に彼らのニーズを研究し、それをテコに企業の転身、レベルアップを測り続けた結果だと言う。聞くところによれば、長安汽車は毎年数百件のニーズ調査を行っており、そのサンプル数は万人規模、企業のリーダー達は自ら顧客の声を聞き、そのニーズを克明に捉える努力をしているそうだ。

 

張宝林によれば、長安汽車は絶え間なく自主イノベーションを繰り返すと言う。自主イノベーションによって長安汽車の転身のドライバーとする。自主イノベーションについては、R&Dはもちろんのこと、人材育成だけでなく、新製品開発も含めた仕事において、顧客に一連の定番製品を供給し続けることも企業の発展には重要であると考えている。

 

長安汽車は10年前から自主イノベーションを開始、今ではイタリアにデザインリサーチセンターを設置し200人以上のスタッフを抱え、イギリスのノッティンガムにはパワートレーンのR&Dセンターがあり100人以上を雇用、更に東京に自動車の内装と商用車についてのR&Dセンターを設置、米国にはシャシーのR&Dセンターを持つ。また、中国国内でも重慶、北京、上海にR&Dセンターが存在する。このグローバルな体制により長安汽車のR&Dは24時間止まることがない。この方法を採ることにより、低コストで、効率の良い自動車の研究開発を行うことができると、国家科学技術部からも推奨されている。

 

張宝林は、健全なシステムが長安汽車の転身とレベルアップを支えていると言う。自動車業界のバリューチェーン、サプライチェーンは研究開発からアフターサービスまで非常に長い。自動車を構成する部品点数は数万点に上り、1つの部品品質に問題があれば、自動車の品質全体に影響が出る。だからこそ、このシステム全体を管理することが重要で、長安汽車はこの点について研究を重ね、改善を重ねてきた。

 

長安汽車

 

「Made in China 2025」について

今年の全人代における「政府工作報告」の中で、「中国製造2025(Made in China 2025)」の必要性が提唱された。イノベーションのドライブを続け、スマート化、インフラの強化、環境対応型発展などを通じて、「製造大国」から「製造強国」への転換を図ることが目的だ。では、具体的にどのように実現していくべきだろうか。

 

張宝林は、まず先に長安汽車が産業の規律を守り続けつつ、自らが良い仕事をすることだと述べる。自動車業界は巨大で、システム化された産業であり、業界全体に規律が求められる。世界の自動車産業100年の歴史を省みても、小さいところから大きくなり、弱いものが強くなるという発展の歴史と規律を持っている。長安汽車もこの発展の規律に則り、むやみに機会を追い求めず、良い仕事をしていきたいと述べる。

 

長安汽車の新製品開発プロセスには特徴がある。それは、自動車業界の王道とも言えるものだ。長安汽車は自動車開発において大量の実験を行い、大量のデータを取得、大量の辞任を投入し、時間をかけた上で、失敗を重ねていく。長安汽車では、ひとつの新車型を投入するために、市場調査から始まって、4, 5年の時間をかけている。このプロセスの中で、数百台の実験車両が破壊される。

 

二つ目の特徴は前述した自主イノベーション能力。五カ国、七ヶ所にR&Dセンターを保有。外国のセンターでは、その殆どのスタッフが現地人スタッフだ。イタリアであればイタリア人、東京であれば日本人というように。R&D費用は売上高の5%以上を投じている。R&Dスタッフの数は全世界で7,000人、その内、外国籍スタッフは300人を越える。

 

「518戦略」の推進による「緑水藍天」の実現

全人代の期間、環境保護が社会全体の注目トピックとなった。「政府工作報告」の中で、2015年は省エネルギーと環境改善技術による戦いが始まるとしており、省エネルギー・新エネルギー車と、自動車排ガス浄化技術の促進が必要とされている。長安汽車は政府の要求に応じて、自動車の小型化、低二酸化炭素化、小排気量化、新エネルギー車の開発と普及を推進していく考えだ。長安汽車は2001年から省エネルギー車、新エネルギー車の開発タスクを開始。先週には三代目のピュアEV(電気自動車)が発売された。同時に、長安汽車は新エネルギー車の発展戦略として「518戦略」を発表。”5”は2020年までにEVもしくはPHEV(プラグインハイブリッド車)の100m加速を5秒以内にすること。”1”はPHEVにおける100kmあたりのガソリン使用量を1リットル以内に抑えること。そして、”8”はピュアEVにおける100kmでの電力消費量を8度(中国の電力消費単位)までに抑えることを指している。長安汽車はこの「588」を目標に新エネルギー戦略を推進していく。長安汽車の2020年における新エネルギー車の類型販売台数は40万台、2025年には200万台を目標としている。


 

編集後記

中国の自動車集団は基本的に「先大後強(まず規模を追求し、その後品質を追求する)」という戦略をとってきましたが、その傾向が特に強かったのが長安汽車集団です。第一汽車、東風(第二)汽車、上海汽車などは品質を重視し、早い段階からミドルクラスの車をラインナップしていましたが、長安汽車はライトバンや中国で言う軽自動車に近いクラスの車を中心に販売しています。価格帯としては低めのラインで、とにかく量を売る、安かろう悪かろうという印象が強いメーカーでした。ミドルからハイエンドの路線は基本的には、フォード、マツダに任せるというスタンスだったと思います。彼らのラインナップは今でもスモール、ローエンドに偏っていますが、張宝林総裁の言葉を借りれば、今後は質を追求していくとのことです。世界5カ国、7ヶ所のR&Dセンターをテコにしたイノベーション、そしてEV, PHEVによる環境対応を加速すると、なかなか意欲的です。

 

一方で、この記事、今回の全人代を別の角度から説明しているとも言えます。経済の「新常態」とは8%の成長目標が7%に下がったこと、すなわち高度経済成長のアクセルを少し緩め、安定経済成長に政府が誘導したことです。この結果、各産業は経済の波に乗るだけでは苦しくなり品質の向上によるブランド力の拡大を目指さなければなりません。また、EV, PHEVの投入については、既に中国では放送がストップされている「穹顶之下」という環境告発動画に代表される、大気汚染の改善を目指す政策目標の産業側の回答と言えるでしょう。自動車業界の「狂犬」をして、規律を守った発展と言わせしめるのですから、今回の全人代での政府の目標に対する本気度が見えるとも言えるのではないでしょうか。

 

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