インバウンドへの想い

2015年のゴールデンウィークということで思い立って今まで一度も来たことがない城崎温泉を2泊3日で訪れて、それこそ素晴らしい”体験”をすることができました。最終日、城崎を離れる今日、志賀直哉が愛し、逗留し、”城の崎にて”や”暗夜行路”でも舞台として使われた老舗旅館”三木屋”の当主、片岡さんとご縁があってお部屋を見せて頂きつつ、城崎温泉の成り立ちや、他の温泉街と比べた強み、そして今後について色々とお話を伺うことができました。

 

その強みを一言で言えば”引き算”による運営です。城崎温泉には古くからそれぞれの旅館の中にある温泉、いわゆる”内湯”の大きさを、旅館のサイズに合わせて必要以上に大きくしないように街の中での取り決めがあるそうです。また、小川が流れる温泉街には地形的なものもあってか、昔から10部屋以上ある大型の旅館は存在しません。結果として、宿泊客たちは7つある”外湯”を巡って街へ繰り出します。外湯には外観や露天の雰囲気に特徴があってそれだけでとても楽しいのですが、外湯を巡る際に街を巡り歩くことになり、それがまた楽しいのです。

 

熱海に代表される昭和からバブル期にかけてブームになった温泉は、大型の旅館が中心で、新幹線や大型バスで乗りつけ、その中でコンパニオンを呼んでどんちゃん騒ぎをして、外に出ることも無く、すぐに帰るのが普通です。自分がサラリーマンをしていた時にもこのような利用の仕方をしていました。結果として、旅館の外にあるいわゆる街の小さなお店は潰れ、廃墟が点在し、街としての魅力がなくなっていきます。そのため、ブームが終われば人は離れていってしまうのです。

 

城崎温泉の街をぶらつくと良く分かりますが、小さな面白い店がたくさんあります。冷やかして歩くだけでもとても楽しい。シンプルで過度な装飾をしない小さな旅館と小さな内湯、それぞれが特徴を持つ7つの外湯、そして軒を連ねる小さなお店。城崎温泉にある飲食店以外の小さなお店は、17, 18時くらいから2時間ほどお店を閉めます。街の人々も皆生活をしているのです。その人たちも食事をして、決められた外湯に100円で入浴するそうです。そして、宿泊客たちが夕食を終えて街へ繰り出した時に再びお店を開けるのです。街にきたとたんに生活感を感じたことにはこういった理由があったのだと分かりました。

 

城崎温泉は、温泉バブルが弾けた後でも客足の減少が大型温泉街と比べて少なかったそうです。今までは関西の温泉宿として知られ、主に冬のズワイガニシーズンに宿泊客が来るという位置づけだったそうですが、今後は関東からの宿泊客を惹きつけ、4月の桜、6月の蛍という7月の花火というように、しなやかに長い視点でプロモーションをかけていくとのことです。

 

片岡さんの言葉で印象深かったのは、「僕らの孫の世代まで小さなお店が存続していくことを考えてやっています」、というものでした。街全体としてビジョンを共有し、長いスパンで物事を考え、流行りに飛びつかず、目の前に脚元にある素晴らしいモノ・コトをしっかりとプレゼンテーションし、サービスとして提供していく。そういった”引き算”の理論がそこには働いていました。素晴らしいと思いました。

 

現在、中国人を中心とした”爆買い”に焦点を当てて、インバウンドでお金を稼ごうという動きが国を上げて”ようやく”盛り上がってきました。東京都心部でも免税店を掲げるお店が増えてきました。しかし、そこに”引き算”の論理はあるのでしょうか。日本の良さは、人々がお互いに阿吽の呼吸で協調して長い目線で、シンプルなモノ・コトを提供するところにあったと思います。大前提として自然に対する感謝や、目の前にある美しいモノやコトに対する感謝の気持ちがあったと思っています。今のインバウンドの盛り上がりは、そうした日本が昔から持っている強さとは程遠いところに重きが置かれているような気がしてなりません。

 

自分に今、ソリューションがある訳ではないですが、こういったことに気付かされたのは城崎温泉という素晴らしいコミュニティを訪れたからです。書を捨てよ町へ出ようではないですが、皆さん、たまには物理的に外に出て、思考してみるのも悪くないですよ。